怪談 くねくね

『くねくね』

第一話

わたしの弟から聞いた本当の話です。
弟の友達のA君の実体験だそうです。
A君が、子供の頃A君のお兄さんとお母さんの田舎へ遊びに行きました。
外は、晴れていて田んぼが緑に生い茂っている頃でした。
せっかくの良い天気なのに、なぜか2人は外で遊ぶ気がしなくて、家の中で遊んでいました。
ふと、お兄さんが立ち上がり窓のところへ行きました。 A君も続いて、窓へ進みました。
お兄さんの視線の方向を追いかけてみると、人が見えました。
真っ白な服を着た人、(男なのか女なのか、その窓からの距離ではよく分からなかったそうです) が1人立っています。
(あんな所で何をしているのかな)と思い、続けて見るとその白い服の人は、くねくねと動き始めました。
(踊りかな?)そう思ったのもつかの間、その白い人は不自然な 方向に体を曲げるのです。
とても、人間とは思えない間接の曲げ方をするそうです。


くねくねくねくねと。




A君は、気味が悪くなり、お兄さんに話しかけました。

「ねえ。あれ、何だろ?お兄ちゃん、見える?」

すると、お兄さんも「分からない。」と答えたそうです。
ですが、答えた直後、お兄さんはあの白い人が何なのか、 分かったようです。

「お兄ちゃん、分かったの?教えて?」とA君が、聞いたのですが、
お兄さんは、
「分かった。でも、分からない方がいい。」と、 答えてくれませんでした。

あれは、一体なんだったのでしょうか?
今でも、A君は、分からないそうです。

「お兄さんに、もう一度聞けばいいじゃない?」と、 私は弟に言ってみました。
これだけでは、私も何だか消化不良ですから。
すると、弟がこう言ったのです。

「A君のお兄さん、今、知的障害になっちゃってるんだよ。」




第二話

これは小さい頃、秋田にある祖母の実家に帰省した時の事である。
年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、早速大はしゃぎで兄と外に遊びに行った。
都会とは違い、空気が断然うまい。
僕は、爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。
そして、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、ピタリと風か止んだ。
と思ったら、気持 ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。
僕は、『ただでさえ暑いのに、何でこんな暖かい風が吹いてくるんだよ!』と、さっきの爽快感を奪われた事で少し機嫌悪そうに言い放った。

すると、兄は、さっきから別な方向を見ている。

その方向には案山子(かかし)がある。
『あの案山子がどうしたの?』と兄に聞くと、兄は『いや、その向こうだ』と言って、ますます目を凝らして見ている。僕も気になり、田んぼのずっと向こうをジーッと見た。
すると、確かに見える。
何だ…あれは。
遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。
しかも周りには田んぼがあるだけ。近くに人がいるわけでもない。
僕は一瞬奇妙に感じたがひとまずこう解釈した。
『あれ、新種の案山子(かかし)じゃない?きっと!今まで動く案山子なんか無かったから、農家の人か誰かが考えたんだ!多分さっきから吹いてる風で動いてるんだよ!』

兄は、僕のズバリ的確な解釈に納得した表情だったが、その表情は一瞬で消えた。
風がピタリと止んだのだ。しかし例の白い物体は相変わらずくねくねと動いている。
兄は『おい…まだ動いてるぞ…あれは一体何なんだ?』と驚いた口調で言い、
気になってしょうがなかったのか、兄は家に戻り、双眼鏡を持って再び現場にきた。
兄は、少々ワクワクした様子で、『最初俺が見てみるから、お前は少し待ってろよー!』と言い、はりきって双眼鏡を覗いた。

すると、急に兄の顔に変化が生じた。

みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく 流して、ついには持ってる双眼鏡を落とした。
僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、兄に聞いてみた。
『何だったの?』
兄はゆっくり答えた。

『わカらナいホうガいイ……』

すでに兄の声では無かった。
兄はそのままヒタヒタと家に戻っていった。
僕は、すぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を 取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか、見る勇気が無い。しかし気になる。
遠くから見たら、ただ白い物体が奇妙にくねくねと動いているだけだ。
少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。
しかし、兄は…。よし、見るしかない。
どんな物が兄に 恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる!
僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。
その時、祖父がすごいあせった様子でこっちに走ってきた。
僕が『どうしたの?』と尋ねる前に、すごい勢いで祖父が、『あの白い物体を見てはならん!見たのか!お前、その双眼鏡で見たのか!』と迫ってきた。
僕は『いや…まだ…』と少しキョドった感じで答えたら、
祖父は『よかった…』と言い、安心した様子でその場に泣き崩れた。

僕は、わけの分からないまま、家に戻された。

帰ると、みんな泣いている。
僕の事で?いや、違う。
よく見ると、兄だけ狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。
僕は、その兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。

そして家に帰る日、祖母がこう言った。

『兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。あっちだと、狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん…うちに置いといて、何年か経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…。』

僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。以前の兄の姿は、もう、無い。
また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。
何でこんな事に…ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。
僕は、必死に涙を拭い、車に乗って、実家を離れた。
祖父たちが手を振ってる中で、変わり果てた兄が、一瞬、僕に手を振ったように見えた。
僕は、遠ざかってゆく中、兄の表情を見ようと、双眼鏡で覗いたら、兄は、確かに泣いていた。
表情は笑っていたが、今まで兄が一度も見せなかったような、最初で最後の悲しい笑顔だった。
そして、すぐ曲がり角を曲がったときにもう兄の姿は見えなくなったが、僕は涙を流しながら
ずっと双眼鏡を覗き続けた。
『いつか…元に戻るよね…』そう思って、兄の元の姿を懐かしみながら、
緑が一面に広がる田んぼを見晴らしていた。そして、兄との思い出を 回想しながら、ただ双眼鏡を覗いていた。

…その時だった。

見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。




第三話

小学4年生くらいのことなんだけど、親戚が水泳教室を開いていて、
そこの夏季合宿みたいなのに参加させてもらった。
海辺の民宿に泊まって、海で泳いだり魚を釣ったり山登ったりする。
小学生が十数人と、あとは引率の先生が男女あわせて4人くらいいた。
俺は同年代のいとこがいたせいで、すぐに他の生徒ともうちとけ、1週間毎日楽しく過ごした。
その最終日前日のことだったと思う。
運悪く台風が近づいてきているということで、海でも泳げず俺たちは 部屋でくさっていた。
みんなは部屋で喋ったりお菓子食べたりテレビ見たりしてたが、俺は 目の前の海を、
民宿の2階の窓からぼんやりと眺めてた。
強風で物凄い高さの波がバッコンバッコンやって来るグレーの海。

「なんだあれ?」

思わず声が出たのかもしれない。
気がつくと後ろにKちゃんもやってきて一緒に窓の外を見ていた。
2つ上の6年生で、虫取りが上手な奴だったと記憶している。

「え、あれ・・・」

Kちゃんも浜辺のそれに気がついたらしく、目が大きく見開いている。
荒れ狂う海のすぐそばを、白いモノが歩いてくる。
歩いてくる? というか移動してくる。
男か女かも分からない。
俺は近眼なんで良く見えない。
服とか着てるようには見えないんだけど、全身真っ白だ。
真っ白のウェットスーツ? そんなものあるのか?
動きはまるでドジョウ掬いをしているような感じで、両手を頭の上で
高速で動かしている。
俺の真後ろで突然やかんが沸騰した。

「ピーーーーーーーーーー!」
いや、ちがう。Kちゃんの叫び声だった。
引率の先生が飛んできた。
Kちゃんは何回もやかんが沸騰したような音を出して畳をザリザリと
はだしの足でこすって、窓から離れようとしていた。
その後引率の先生と他の先生とがKちゃんを病院に連れて行ったような気がする。
その日はみんな怖くなって布団をくっつけあって寝た。
Kちゃんは戻ってこなかった。
数年後親戚の集まりでいとこと会ったので、その夏の事を聞いてみた。
いとこは何故か露骨に嫌な顔をした。
Kちゃんはストレス性のなんとかで(脳がどうとか言ってたかな)その後すぐに水泳教室をやめたらしい。
水泳教室自体も、夏季合宿の類を中止したそうだ。
Kちゃんは何を見たと言っていた?俺が聞きたいのはこれだけなんだが、どうしても聞きだせなかった。
俺は、その夏季合宿の後すぐ眼鏡をかけるようになった。
でも今でも、その夏季合宿の時に眼鏡をかけていたら・・と思う。
Kちゃんは一緒に森を探索したときに、木に擬態しているような虫も 真っ先に見つけるほど目が良かった。
Kちゃんはきっと、その浜辺で踊っていたモノ(踊っていたとしか言い様がない)を、
はっきりと見てしまったに違いないんだ。




第四話

高校の時、家に友達を呼んでくだらない話で盛り上がっていると、
玄関を勢いよく開けて母が転がり込んできました。
尋常ならざる様子に俺が駆け寄ると母は
「お願い、お願いだから田んぼには行かないで」
と繰り返しました。
買い物帰り、自転車で田んぼ道を走っていると見なれない黒いものがうごめいているのが見えたそうです。
カカシかな、と思い自転車を止めてよく見てみると手足の細い人型の物体がその四肢を狂ったように、
[くねくね]と動かしていたらしいのです。
とたんに得も言われぬ恐怖に襲われ、逃げてきたそうです。
その時は「分かった。」と一言いって母を落ち着かせたのですが、話のネタにも困っていた俺達は
こっそり母の言った田んぼにいってみることにしました。
それはやはり居ました。風も無いのに、ひたすら手足を動かす黒いもの。
しかもそれはゆっくりと移動していました。
しまった!と思ったときにはもう遅く、目からは涙があふれ膝はがくがくと震え出しました。
友人も口元を振るわせながら目をうるませていました。
泣きながら逃げ帰ったのは言うまでもありません。
くねくね動くだけのものがどうして怖いのか?と問われると言い返しようがありませんが、
まるで俺を飲みこむようなあの圧倒的な違和感はこの世のものとはとても思えません。
ほんとに怖かったんです。




第五話

小学生の頃、社会科見学でどこかの石切り場に行ったんだけど
見学中いきなり同じ班だった奴の一人が急に

『ヒヒヒヒヒ・・・』
って小さく笑い声の様なの様な泣いてる様な声上げて
その後、泡吹いて倒れてちゃってさ、
元々体の弱い奴だったから、また発作だなぁ~程度に考えてた
まぁ、そいつすぐ目覚ましたから
救急車とかは呼ばなかったんだけど
大事を取ってバスで休憩してろって事になって
(その先生の判断が正しいか如何かは置いといて笑)
当時、班長やってた俺もバスで待機って言われてさ
まぁ、病人相手だから特に話すことも無くてさ、何気なく
「おまえ、また発作か?」
って聞いたんだわ、そしたら
「似たような物だけど違うかな。さっき、変な人影見ちゃって・・白い人影・・踊って・・ヒヒヒ・・」

「ヒヒヒ」って声が子供なりにヤベェなぁとおもったけど、
なんか当時、心霊ブームでそういう話に興味あってさ
「そんなの居たか?作業員とかじゃないのか?どんな奴だったんだよ?」
って問い詰めたら
そいつ、急にきつく睨むような表情して
「知らないほうがいいこともあるよ・・・ヒヒ、一度見ちゃうと、何度も来る・・・」
「ヒ・・・あれは・・・ヒヒヒヒ・・・・M君(俺の事な)は関係ないよ・・・ヒヒヒヒヒ・・・」
そこでまた泡吹いて気絶。
言うまでも無く、その後学校に着いてから校長室行きですよ・・・
病人に何したんだ!!って(笑
何かしたとしたら、たぶんそいつの言う白い奴だと思うけど・・・




第六話

私の住んでいる所はベットタウンといわれている人口密集地帯なのですが、
早朝マラソンをしている人をよく見かけます。
2階のベランダからその走る姿をコーヒーを飲みながら眺めていると一日が始まるという感じがしていました。
毎朝だいたい同じ顔ぶれなので、暮らしていくうちに顔を覚えていきましたが、
怖い体験はその決まった時間にマラソンをしている一人の男性についての話です。
最初、決まった時間に走る彼を見て、「毎朝エライなぁ」と感心していたのですが、
何回か彼を見かけているうち、私はその彼のおかしな部分に気づきました。
汗をかかない。呼吸をしてない。足音がしない。この3つでした。
ベランダから少し距離もあるので勘違いかと思ったのですが、
他のランナーと比べることができるのでおかしいことは確かでした。
もしかして幽霊かとも思いましたが、
見かけはマラソンをしている丸刈りで健康そうな青年だったので恐怖より不思議な感じでした。
きっと、彼は走り方を研究して、そうなっているのだとも考えていました。
でも、私は気になってしかたがなくなり、近くにいって確かめようと思いました。
彼の走る決まった時間を見計らって、ゴミ捨てをするフリをして、待ち伏せしたんです。
やはり定刻に彼が向こうから走ってくるのが見えました。
かなりドキドキしました。でも、私の勘違いだろうと楽観的な部分もありました。
だんだんと近づいてきたときに、彼の両手首がキラキラと光っているのがわかりました。
なんだろう?と最初思いましたが、それよりも3つの気になることがあったので気にしませんでした。
目を合わしたくなかった私は、30mくらいに彼が近づいてきたとき、
ゴミ集積所を片付けるフリをして背中を向けました。
音だけである程度確かめられると思ったからです。それにやはり怖かったし、、、
通り過ぎるだろうと思ったタイミングに何の気配も音をしなかったので、
正直パニック状態に陥りました。冷や汗が出て膝が震えました。
彼の通り過ぎた後の背中も見ることができないくらいでした。

しばらくその場で時間を置き、気持ちを落ち着かせ、ゆっくり辺りを見回しました。
彼はすでに走り去った後で誰もいませんでした。
何が起こったか整理がつかず、しばらくその場でボーとしてしまいました。
家に帰ろうとしたとき、さっきの彼と同じ方向から走ってくるおじさんがいました。
額から汗が光り、胸を上下させて苦しそうに走っているのが見えて、少しホッとしました。
横を通り過ぎるとき、私は軽く会釈をしました。
会釈して顔を下げた瞬間、そのおじさんの両足首にキラキラと透明の糸が巻かれているのが見えたのです。
彼の手首に見えたキラキラと光ったものがフラッシュバックし、
ドキッとして、反射的に走り去ったおじさんを見るために振り返りました。

首、両手首にも同じ透明の糸が見えていました。

そして、何よりの恐怖は、そのおじさんの走る先、遠く路地のつき当たりで、
体を奇妙にクネクネと曲げ、その糸をたぐりよせる仕草をする彼の姿が見えてしまったことでした。

それ以来、彼もそのおじさんもどうしたのかわかりません。

朝はカーテンを開けない生活を続けています。




第七話

たぶんクネクネと思われる体験談なんですが
ここでも散々でてる秋田、能代での出来事です。
私が小学生だった頃ですので、かれこれ25年ほど昔になるのですが夏休みを利用して、
親戚一家が我が家に遊びに来ていました。
そこでジュンサイを採りに行くことになり、私と親戚の子供、その母親の3人で出掛けました。
沼と言っても3ヘクタールくらいあり、私と親戚の子供の二人、母親にわかれて
2箇所にわかれてとっていたのですが、突然母親が悲鳴をあげて沼に倒れこみました。
あまりの奇声に、すぐに私は家に助けを呼びに帰ったのですが
祖父と沼に戻った時には母親は言葉にならない声だけを発して沼も中に座りこみ
母親のもとに向かった子供は何もない空間を見つめ、立ち尽くしていました。
二人をうば車(籐でできた大きいもの)に乗せ家に帰るまで祖父はずっと泣いていたのを覚えています。
その後、親戚の父親が二人をすぐに連れて帰ってしまったので
祖父になんで?と聞くと

「見てはいけないものを見てしまったんだよ」
というようなことだけしか、言ってくれませんでした。
その親戚の一家ですが、我が家では話題になることもなく
一種のタブーのようになっているので現在の様子は知りませんが
その家の祖父が亡くなった時にも、葬儀に招かれなかったので
この一件が何らかの影響を家庭に与えたのではないかと思います。




おまけ

ちょうど今日の事だ。

帰宅途中のおれは、田舎の長い一本道を歩いていた。
夕方を過ぎて、周りはかなり暗くなってきていた。
突然くねくねの話を思い出したおれは道の前方と後方に人がいない事を確認してから、
歩きながらくねくねしてみた。
しかしくねくねが現れるはずも無く、田舎の夜道はシーンと静まりかえっていた
もう一度道の前方と後方を確認するおれ。
するとさっき見たときには確認できなかったのだが、
道の後方に、それはいた。

買い物帰りのおばちゃんだ。

おれは手をバンザイの状態にして思い切りくねくねさせながらそっちに向かって走った!!
おばちゃんはチャリごと転んでいた
ごめんおばちゃん