ろくろ首

no.124 ろくろ首

昔、ある武士が、夜明け前のまだ暗い時間、都を目指して道を歩いていた。
そしてさはや野というところにさしかかったとき端に石の塔が建っているのを見つけた。
何気なくその塔を見ながら歩いていると、
塔の上の方からニワトリのようなものが道に舞い降りた。
だがそれは、よく見るとニワトリではなく、女の首だった。

その女の首は、髪を振り乱しながら地面を転々とし、ぎろっと武士の方を睨んだ。
一瞬、目と目が合った後、女の首はケラケラケラと笑い出した。
だが武士の方もひるむことなく

「出たな、化け物!」

と言いながら、刀を抜き、その首めがけて切りかかった。
しかし刀をかわした生首は、そのまま宙に浮き、すうっと、どこかに飛んでいった。
武士も生首の後を追う。

しばらく走って追いかけていると、その首はどこかの家の窓から中へと入っていった。
武士もさすがに勝手に家の中に入るわけにはいかないので、
家の横に立ち、中の様子をうかがってみた。
すると、中から夫婦らしき話し声が聞こえる。

「ちょっとちょっと、お前さん、起きてよ。」
「ん。何だ、まだ起きる時間じゃないだろう。」

「ごめんよ。今とっても怖い夢を見たから、怖くなっちまって、つい起こしちまったんだよ。」
「怖い夢を見た?」

「そう、私がさはや野を歩いていたら、
一人の侍がいきなり刀を抜いて、私に斬りつけてきたんだよ。
もう私、必死に走ってきて、やっと家までたどり着いたのさ。」

その会話を聞いて武士は驚き、そして意を決してその家の戸をたたいた

「こんな朝早く、誰が・・?」
といった顔をして、夫婦はそろそろと戸をあけた。
お互いが顔を合わせ、お互いがびっくりする。

「さっきの生首!」

「キャー!さっき私を斬ろうとしたお侍さん!
あんた、この人だよ、この人が私を殺そうとしたんだ!」

そう、その妻は間違いなく道端でみた女性の生首と同じ顔だったのである。