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都市伝説 No211 常連の名無しさん

その常連さんはとても羽振りがよくて、女の子にも気前がよかった。だけど、3度目に来店した時には――

若い頃とあるお店に勤めてた。
基本的に客層の良いお店だったが、まれに変なお客さんもいた。

ある晩一人でふらりと来店したお客さんの話なんだけど、名前は名無しさん。
なぜ名無しなのかは読んでもらえればわかると思う。

名無しさんは20代前半の若いお客さんだった。
だけど金回りが良いのか金払いの良いお客さんだった。

一見さんはどんなお客さんか見るため客あしらいのうまい私が担当していた。
一度目の来店で高い酒をボトルキープし店で一番高いつまみを頼み、
女の子全員に寿司まで振舞ってご機嫌で帰って行った。
二度目の来店でボトルが空いたので、さらに高いボトルをキープ。
店にいる女の子全員にチップを渡し、これまたご機嫌で帰って行った。

三度目の来店でボトルが空き、
同じ酒をキープしつまみもじゃんじゃん頼んだ。

会計時に「今日はお金ないからツケでいい?」って言ってきた。
対応をマスターに代わってもらったら、
マスターが名刺をいただけますか?って言ってた。
因みに来店してからの二度とも仕事についてや名前について聞いたけどはぐらかされてた。
だからニックネームやボトルネームは名無しさんだったのだ。

名無しさんは名刺はちょっと切らしてるとかもごもご言っていた。
しかし名前も職業もわからない人のツケは
流石にちょっと…とマスターも断った。
名無しさんは今度来たら必ず払いますからって土下座までして頼み込んだ。
マスターもこれには折れて、
と言うかもう現れないだろうって感じで半分諦めてツケを了承。
変な空気のまま名無しさんは帰って行った。

連日来てた名無しさんが現れなくなって一週間以上たって、
やっぱこのままバックれられちゃうんだろうなって思ってた頃名無しさん来店。
私もマスターもまさか来てくれるとは思ってなかったので
嬉しくなって満面の笑みでお迎えした。
名無しさんが喜ぶ話をしたり笑える話をしたりして楽しく盛り上がった。
その日も女の子に寿司を振舞いチップを渡し
ツケの分も払ってご機嫌で帰って行った。

名無しさんが帰ってから名無しさんが座っていた席を
整えるためにカウンターを出て席を戻そうとした。

しかし椅子が入らない。

「?」って思いながらカウンターの下を覗き込むと
カウンターの底にアイスピックがぶすっと刺さってた。

「もしかして気に入らない対応してたらこれで刺されてたの…?」

ってガクガクしてたら店のドアが開いた。
ビクッとしてそっちを見たら警官二人と私服警官みたいな人が入ってきた。

用を聞くと、隣の店が客にアイスピックを盗まれた、
アイスピックを持った客は来なかったかという。
私はアイスピックってこれですか?ってカウンターの下を指差した。
警察はそれを抜いてこの男は要注意人物なので
気を付けてくださいとだけ言って帰って行った。

もう捕まっているのか、それともまだ捕まってないのか分からないけど
警察は犯人が分かってるようだった。

マスターが追いかけて行ったあれこれ聞いたらしいが
名無しさんの事は何も教えてもらえなかった。

だから名無しさんはいまだに名無しさんのままだ。