706 :あさがおの話:2007/06/25(月) 11:17:05 ID:8Y0R6e8s0

洒落怖 ロゴ大黒

洒落怖「亡くなったヲタ友の霊が朝顔のように私に巻きついていたあの夏」

彼女は田舎の学校で唯一、ヲタク趣味を分かち合える大事な友達だった。 彼女が亡くなってから私は、まるで彼女が私の中に存在しているかのように身近に彼女を感じていたのだが――。

英子ちゃんは狭い田舎町の過疎学校で、私以外にヲタ本を読む唯一の子だった。

銀英の話や、グインサーガ、天野や末見の絵について語れる唯一のヲタ友だった。
彼女は本を読みながら歩く癖があって、本を読み出すと周囲の事が一切
耳に入らないタイプだった。おまけに田舎の山道は狭かった。

だから採石所を往来する、どでかいダンプに轢かれて亡くなってしまったのだろう。

異変は彼女が亡くなってすぐにおこった。
私がゲームをやったり読書をしたりしていると、背後に気配がしたのだ。
それは空想と妄想がまじりあった不思議な感覚だった。
彼女が後ろでのぞき込んでいるのがビジョンとして脳裏に浮かぶのだ。

「続きが気になって成仏出来ないんね?あんたらしいわぁ(´▽`)」

全然怖くなかった。
夢見がちなダメ人間の私には、英子ちゃんは幽霊になったとしても
「子供出来よったかも」などと言う同級生などより、遙かに自分に近い存在だったから。

日がたつにつれ、脳内では背後にいた彼女との距離はどんどん近くなり、
ついにはすっかり私の身体と重なるようなビジョンが浮かぶようになった。
私は彼女と一つになれたような気がしてとても嬉しかった。

もし私が都会に住んでいたら、この関係は壊れる事なく続いたのかも知れない。
現実が見えない夢見がちなヲタ娘の妄想として。
私が亡くなるまでずっと。

しばらくして私は熱を出しぶっ倒れた。
粘膜という粘膜が腫れ上がった。
即、町で唯一の病院へ。

血液検査の結果、驚くほど炎症反応の数値がでた。
それは限りなく廃血症に近い数字だった。
「現時点ではよくわかりませんが何かの細菌感染ですね。
 すぐに抗生物質を出しますね。」
しかしその抗生物質は効かなかった。

次の週に別の種類の抗生物質が処方されたが、それもきかなかった。
「細菌培養では常在菌しかみあたりませんね。耐性菌かな?うーん・・」
医者の口調はとても歯切れが悪かった。

私の住む町は迷信深く、とっても密接な人間関係をもつ田舎町だ。
すぐに「英子ちゃんが○子を連れて行こうとしちょる!」という噂になった。
そしてあっという間に町の拝み屋さんが手配され、我が家にやってきた。

だがしかし、私はボロボロと泣いて暴れ、痛い台詞を吐き、除霊を拒否した。

「もう英子ちゃんは、ミギーみたいな関係なんよ?ずっと一緒におるんよ!」

取り憑かれた本人が拒否しては、どんな霊能者もお手上げなのだそうだ。

「英子ちゃんは親友なんよ?私に悪さするわけないじゃき!」

そういう私に、うちのばぁちゃんは庭に生えていた朝顔を指さして言った。

「あれな、じつは根本ん所をニワトリがついばんでしもうたんじゃ。
 宙ぶらりんの根無し草なんよ。」

「え?でも毎日花を咲かせちょるんよ?なんで?」

ばぁちゃんの説明はこうだった。
朝顔は途中から切れても、葉っぱから水分を吸収することが出来る。
葉っぱから太い毛のようなモノがびっしりと生えてきて、それが水を吸収するのだ。
ただ、維持のためには朝昼晩と大量の水を葉っぱ全体にかけ続けなければいけないのだそうだ。
根っこがあれば、水はその十分の一ですむのに。

「水は生命力のようなもの、根っこは肉体だと思えばええ。」

おばぁちゃんは諭すように、続けて私に言った。

「幽霊はそばにいるだけで命を沢山吸い取ってしまうんよ。悪気はなくてもな」

すっかりおじけづいた私は素直に除霊に応じた。
人型に息を吹き込んで川に流すだけの儀式だったが、効果はテキメンだった。
その日のうちに腫れはひき熱も下がった。

私はヲタクをやめた。
本は古紙回収に出した。(当時はブクオフなどなかった)
スーファミもFF7をやるために購入したプレステも従兄弟にあげた。

その後、ぶち切れていた根無しの朝顔の根元は、サツマイモから出た蔓に接ぎ木をされた。
根っこはサツマイモ、そこから生える蔓は朝顔という奇妙な植物。
それはそのままワサワサと茂り、大量の花を咲かせ続け、
ついには二階の屋根まで覆う大きなモノになった。

毎年毎年、アサガオが咲くこの季節になると、この話を思い出してしまう。

そして思う。
もしかしてアサガオみたくうまく「接ぎ木」ができていれば、
肉体は私、中身は英子ちゃんという生き物ができたかもしれんかもなぁ。と。