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「8月5日広島のホテルに現れた兵隊の霊と鳴り響く空襲警報」洒落にならない怖い話

彼女と実家のある広島に帰省した。実家に行く前に野球を見てその後安めのホテルに泊まったのだが、そこで身も凍るような不思議な体験をすることになるとは―― 

盆に起こった不思議な話。

ワイは今関西に住んでるんやが、生まれは広島やねん。
で、盆休みやし彼女連れてズムスタに行ったんや

8月5日に広島に着いたんやけどな、実家なんかやきうみたあとに顔だしたらええわおもて、その夜はホテルに泊まることになったんや。

ワイも彼女も朝弱かったから4000円のホテルがあってな、今から考えてみたらもう少し出してちゃんとしたとこに泊まればよかったと思う。
翌日はピースナイターやし、吉川晃司が始球式、前田が先発やしそればっかり頭にあってな。
すごい楽しみやったんや。


行きの運転でクタクタになってて、二人とも爆睡してもうたんや。
部屋はわりと古風な感じでわりと雰囲気のある部屋やったことは覚えとう。

午前3時、爆睡してた2人に向かってけたたましい爆音が耳元で鳴ったんや。
聞き覚えのある甲子園のサイレンのような音…
それは間違いなく空襲警報やった。

ワイらは飛び起きて辺りを見回した。
部屋自体は何も変わらへんかったけど、普段では感じないほどの焼けるような暑さがワイにはあった。
もちろんホテルでは冷房ガンガンやったし、室温も22度やったんやけどな。

そんときばかりは彼女も異変を感じてブルブル震えとった。

そしてある言葉を耳にする。

「火事じゃ、ショウレイカイカンで火事じゃ!!」

ワイはほんまに火事が起こったかと思って廊下に出てみた。
でもそんなことはなくて入った時と同じように廊下の外は静寂に包まれとった。
しばらくすると部屋の中から彼女の悲鳴が聞こえたんや。

急いで部屋に戻ったら部屋の壁を指しながら彼女が震えとった。
ワイは彼女の指差す方向をみた。

女子供を蹴り飛ばしてまで川に飛び込む兵隊、階段みたいなところでうずくまりながら何か唱えてる老人、子供を抱きかかえながら地獄じゃ……地獄じゃ…すまんの……と呟く母親。

あの日の夜はその翌朝起こった出来事がその部屋全体に鮮明に写し出されてた。

しばらくするとワイらのベットのうえに一人の男が座り込んでるのを目撃した。
この世のものとは思えないというのはまさにこのこと。
彼はワイらに向かってこう呟いた。

「帰っちゃれ。ワシらァ帰る家もねえんぞ」

翌朝、平和式典に出席したワイらは平和の像の前で鎮魂にも満たないちっぽけな花束を献花し、試合見て実家帰ったわ。

吉川晃司の始球式も前田の投球もなんも覚えとらん。

上の空で実家にはようかえろう思うてやきう見てたのはこれが初めてや。

以上や。