山怖ロゴ おうまが 

山の怖い話『“絶対に顔を上げちゃだめ!”山で遭遇した視てはいけない異形達の行進』

小学生の時に学校行事で山に遠足に出かけた。引率してくれた先生が年輩で山にとても詳しい人だったので、色々と教えてもらいながら楽しく登山していたのだが―― 

まだ幼いころ、確か小学校3年くらいだったかなぁ。
どこの山だったか忘れたけど、学校の行事で遠足に行った時の話。

田舎の学校でそんなに生徒数がいる訳でもなかったので、
10数位ずつ一人の先生が引率して、グループで歩いたんだけど、
その先生がすごく年配で山に詳しい先生で、山についていろいろ話してくれた。
植物とか動物とか、後は忘れたけどなんかの民俗学的な話だったと思う。
普段は厳しくてそんなに人気のある先生って訳じゃなかったけど。
その時は優しそうに話してくれたから、生徒も楽しい感じで和気藹々としていた。

そんな感じでずっと登山を続けていて、特にトラブルに会うこともなかったけど、
山の中腹よりちょっと上のあたり、木々に囲まれて薄暗く、
少し銀色がかった木漏れ日が多少入ってくる程度の地点、
みんな足に疲れを感じ始めたくらいの頃に、その先生が急にこう叫んだ。

「左側に寄りなさい!」


それは叫んだというにはとても小さな声で、でも、その口調は確かに、
”叫んだ”と表現するのが適切だったような記憶が、10年たった今でも残っている。
先生が急に怯えはじめ、何かを避けようとしている意図を、
まだ10歳程度の子供たちにも伝えるには、十分すぎる声だった。

とはいえ、生徒は皆、具体的に何が起きているのかさっぱり理解できておらず、
ただ、恐怖とも興奮とも違う、異様な緊張感だけが漂っていた。
そして先生は、最初の指示から少し間を空け、さっきより少しだけ落ち着いた声で言った。

「足を止めて、顔を下げなさい。そして、絶対に顔を上げちゃだめ。」

みんな何がなんだか訳がわからず、ただ必死にそれに従い、立ち止まり、
顔を下げてひたすら下ばかり見ていた。

やがて、20秒ほどその状態でいると、
自分たちの右脇を、15.6人程の集団が通ろうとしているのを感じた。
道は4m程の幅があって、こちらは左端に寄っており、その集団は、
右半分のちょうど真ん中くらいのラインを歩いていたので、すぐ側ではなく、
少なくとも3m位の間隔は空いていたと思う。

俺はどうしても気になり、
ほんの少しだけ斜めに視線を動かし、その集団のほうをおそるおそる見た。

山頂に着き、他のグループみんなと合流し、学校側で用意されていた昼食を食べた。
空はそんなに青くはなかったが、山道の暗さとのギャップで凄く明るいように感じた。
あの遭遇以来、山頂に着くまで、先生は生徒と一言も口を利かず、先頭を歩いていた。
その二列後ろを歩いていた俺は、先生の表情はさっぱり伺えなかったけど、
皺の目立つ、いかにも年配の大人らしい手が、小刻みに震えているのがわかった。

先に山頂についていた若い先生に、「うちの班は何も問題なかったですよ。」
と語ったときは、山について優しげに語っていたときの口調に戻っていた。
みんな胸をなでおろして、堰を切ったように緊張感が取れたようだったが、
俺は、その手がまだ震えているのを、確かに見ていた。

それから、その先生とも、その場にいた友人たちともその話題になることは一切無かった。
当時は忘れていたのか、偶然話題になら無かっただけなのか、はっきりしないが、
とにかく、あれから10年もの間、そのことについて語った記憶がまったく無い。
あれは、あの集団は一体何だったのか?今になって時々思い出し、考えるが、
さっぱり見当もつかず、忙しい毎日の中、考えても無益なことだと諦めてしまう。

ただ、あの時、横目でちらっと一瞬だけ見えた、
あのドラマでも、映画でも、漫画でも見たことも無いような異様な形の履物だけは
今でもはっきりと思い出すことができる。

履物といっても靴がちょろっと見えただけなので

一言で言うと、「ミノムシみたいな質感のデッキシューズ」って感じだった。