怪談ロゴおうまが

『八尺様?見越し入道?森の道から現れた段々デカくなる女』怪談

夏休み、深夜に家の前にある自販機まで出かけようとした俺は、たまには他の飲み物を飲もうと思い立ち近所のコンビニに向かうことにした。その帰り道、 つい興味本位で街頭もまばらなうら淋しい場所を散歩した俺は、コツコツというハイヒールの音を耳にして――

あれは俺が中学一年の夏休み、8月も半ばをすぎた頃だったと思う。
宿題が殆ど手付かずだった俺も流石にマズいと気づいて、毎日夜遅くまで宿題をしてた。

その夏は熱帯夜が続いて、昼に用意してた飲み物もすぐに無くなるもんだから家の前の自販機でコーラを買うのが日課だった。
その日も夕立のせいか蒸し暑くていつも通り自販機に行こうとしたんだけど、毎日コーラじゃ流石に飽きるし気分転換も兼ねて徒歩10分くらいのコンビニに向かうことにしたんだ。
何事も無くコンビニでポカリと夜食を調達した俺は悠々と帰路についた。
時間はその時点で1時を回ってたと思う。

だけどただ帰るだけじゃ勿体無い。せっかくの夜の散歩だし、もうちょっとブラブラして帰ろうと思って、遠回りになる裏道を通って帰ることにした。

街灯もまばらで舗装もされていない薄暗い道は、幽霊はいないと公言してた俺でも何か出るんじゃないか、と思わせるには十分な雰囲気だった。

足もとに注意しながら暫くすすむと、前方の森の中へと入る横道からガサガサと物音がした。


もうその時点で逃げ出したかったけど、俺が逃げるよりも先に子供が飛び出してきた。
その子供は俺に気付かなかったのか興味が無かったのか、脇目も振らずに全力疾走で俺とすれ違った。俺はというと子供が見えなくなるまでマヌケな顔して突っ立ってた。

暫くして、また音が聞こえた。今度はハイヒールの足音みたいな
コッコッコッコッ
って感じの乾いた音だ。

ハッとして前を向いたら子供が出てきた横道から今度は女がでてきた。
さっきの子供の母親だと思った。
その時は。

(ただの親子が夜の散歩にでて、テンションが上がりきった子供が全力疾走で走り出したんだろう。俺も夏の夜のテンションに任せてわざわざ遠回りしてるんだ。気持ちは分かる。)
んな事を考えながら歩いてると、おかしな事に気づいた。

デカい。
女がデカい。

俺が一人でホームズのごとき名推理を繰り広げている間に、女が謎の成長を遂げていた。
具体的には当時の俺と同じくらいの160センチから一気に2メートル近くまで。
物凄く怖かったが、すぐに“みこし入道”という妖怪を思い出した。
近づけば近づく程デカくなるというアレだ。
生憎攻略法をぬ~べ~でマスターした俺の敵になるような奴じぁあない。
そう判断した俺は、自分の恐怖心を克服する為の第一歩を踏み出した。
今思うとそこで引き返せば良かった。

近づいていくと女の成長が止まった。
俺が怖がらなくなったからか、元々それが限界だったのかは分からないが、段々気が大きくなってきた俺は意気揚々と進んだ。
あくまで女と目を会わせないように俯きながら。
相変わらずハイヒールの音だけが響いている。

俺はそこでようやく気づいた。
なぜそれまで気づかなかったのか、舗装されていない地面は夕立のせいでぬかるんでた。

驚いた俺が女の足もとに目をやると、女はハイヒールどころか靴自体履いて無く、更にあろう事か距離を取ってすれ違おうとしてた俺に向かって進行方向を変えてきやがった。

それが決め手になって俺はコンビニまで全力で逃げた。
後にも先にもあそこまで本気で走ったことはないと思う。
暫くコンビニで時間を潰して家に帰る頃には随分明るくなってた。

結局新学期が始まるまでそれ以外には変わった事も無く、怪談話として友達に話したりもしてた。

翌年の夏、俺はまたあの女をみた。
見たといってもチラッとだけ視界の端にうつる程度だったし、気のせいだろうとタカをくくってたが、その次の年も、毎年女は現れ続けた。
俺がその存在に気づいて顔を向けるとスッと物陰に消えていく。
気のせいにしてはやけにはっきりと見えるし、俺以外の人間にも見えるみたいだ。
俺はそのうち女が現れる条件のようなものを見つけ出した。
夏の雨上がりの夜振り向くと出てくる。
だんだん気配みたいのもわかるようになってきた。

なので唯一の対抗策として、ここ二年程気配を感じても振り向かないようにしてる。
ただ、去年からあのコッコッコッコッって音が聞こえだしたんだが、もしかして近づいてきてる?

振り向いた方がいいのか?