俺がガキの頃(多分小学2年)の話なんだが・・・

俺の家(借家)の裏に60代後半位の夫婦が住んでたんだけど、近所付き合いが有って
時々そのうちで取れた夏蜜柑とか、金柑とか貰ったりしてた。

だもんで割と自由に行き来してたんだけど、ある日おじさんちに物売りが来てたんだよ。
なんて言うか・・・最近じゃ全然見ないけど胡散臭い汚い感じの男で、
ダンボールの箱に品物を入れてそこらの家に見せて回ってるみたいだった。(俺のうちには来なかった)

ああいう人ってのは嗅覚とか独自の判断基準が有るのかね?
いきなり追い出しに来る様な家には売りつけに行かない感じがする。
まあそれはどうでもいいんだけど、
売ってる品物は古臭い置物とかこけしみたいなのが数個と人形数体だった。
なんか・・・多分盗品では無い気がするんだけど・・・
何処かの家から持ってきたの?って感じの品物だった。(新品が無いっていう感じ)

多分俺のうちに売りに来ても、うち貧乏だったし、
母親が即帰れって言い出しそうな品揃えだったと思う。
ただ裏のおじさんは旧い置物とかに興味が有る人だったみたいで、
玄関に招き入れて品物を見てた。
俺は丁度その日金柑取りに来いや~って言われておじさんのうちに行ったんだけど、
金柑貰う前に物売りが来たもんで後回しにされて、一緒に品物見てた。




・・・・で、やっぱガラクタばっかなんだよね。
こけしなんかも色が剥げてたり、置物は埃がこびりついてそうだし・・・
人形は全部和人形だったと思うけどおじさんが「いちまさんだな」って言ってた。
いちまさん=市松人形5体くらい有ったかな・・・
4体は着物の色がやや褪せてたけど普通の形で、残り一体が破損してて両手と下半身が腰から潰れたみたいに砕けてた。(陶器製)

ガラクタばっかだな~・・・って見てたんだけど、
体破損した市松人形は顔は少しも傷ついてなくて、おじさんも「こういう人形は顔が命だから体は新しく作り直してつければいいんだ」って言ってた。
それで他の市松人形とその壊れた市松人形を見比べると、
素人目(そして子供の目)にも壊れた人形の容貌が秀でてた。
なんて言うか格の違いを感じた。
俺が買うんじゃないし子供だからおじさんには何も言わなかったけど、その人形が一番価値が有りそうだと俺は思った。
その人形の顔を見てると、特に人形の瞳から自分の目が離せなくなって、
途中で怖くなって目を逸らしたくらい生き生きとしてた。

おじさんはしばらく品物を色々物色してたけど、最後に壊れた市松人形だけ買った。
「体壊れてるから負けてや」とか言って相手が2000円とか言ってたのを1000円位で買ったと思う。
あとで俺に「体直したら何万円とか(価値が)つくかも知れない」とかニコニコしながら言ってた。
俺は『やっぱあの人形はいいもんだったんだ~』って思った。
そして金柑貰って帰った。

次の次の日くらいに行ったら、おじさんは体直す為に人形を預けてきたとか言ってた。
そんでおばさんは後ろの方で気持ち悪い人形買ってきて・・・とかブツブツ言ってた。
気持ち悪いと言えば気持ち悪いかもな・・・って俺も少し思った。
存在感ってやつを物から感じたのはその人形見た時が初めてだったと思う。

・・・・で、それから二週間後くらいにおじさんは死んだ。

詳細は良くわからなかったけど、自サツ?事故?って感じで、
近所の人にも多分よくわからなかったと思う。

聞いた話では寝てる時に顔の辺りを焼いてしまったとかで、俺が見た時はまだ畳とかが焦げてた。
寝煙草とかはしない人で灰皿、煙草、ライターは寝室には置かないっておばさんが言ってた。
火の気が有ったとしたら蚊取り線香とマッチ・・・って、
でもなんでおじさんの寝てる辺りの畳が燃えたのか誰にもわからなかった。
普通はおばさんが疑われるのかも知れないけど・・・
仲が良い夫婦だったし生命保険とかも大した金額じゃなかったみたいで、
半農家で暮らしに困ってたわけじゃないし・・・本当に何故そんな事になったのか謎だった。

まあ今でも謎なんだけど・・・・・俺はずっと気になってた。
あの人形。
おじさんが死ぬ数日前に体が修復されて戻ってきてた。
おじさんの葬式が終わってから、俺は時々おばさんと話をしてたんだけど、
人形は葬式の後辺りから無くなってしまって、
多分親類の子供とか誰かが持って行ってしまったんじゃないかって言ってた。
おばさんは元々ああいう人形は好きじゃないみたいで、無くなっても気にしないって感じだった。
持ってかれたってのは疑う事も無い部分なんだけど、
ただ・・・・子供が持ってくかな?って俺は思った。
持って行ったとしたらそれは大人で、目的は売り飛ばす為だったんじゃないかって俺は思う。
素人目にも生きてる様な迫力を感じる人形だし・・・・目を離せない何かが確実に有った。

最初見た時あの人形は手と下半身が完全に砕けてた。
顔には全く傷が無いのに・・・・どういった状況ならあんな壊れ方するんだろう?
高い所から落とした場合・・・・顔も粉々の筈。
何かに押しつぶされた場合・・・下半身は潰れても手が腕まで同時に潰れるってことは無い気がする。(胸も潰れて無いとおかしい)
そうなると・・・・誰かが意図的に手の部分と下半身を砕いたとしか思えない。
何の為?
正気の沙汰じゃないかも知れないが、勿論動かないようにする為じゃないだろうか?
あの時から二十数年経った今思い出してみても、俺にはあの人形が生きていたとしか思えない。

あの人形の体を砕いた人が顔を砕けなかった理由もなんとなくわかる気がする。
顔を砕いたら・・・・あの人形はむしろ自由になってしまうんじゃないだろうか?
体を砕いて動けなくするのが最良の対処法なんじゃないだろうか・・・・・。
はっきり言って俺はこの事に関してまともじゃないと思う。
誰が見ても俺が書き込んでる事はおかしい。
でも・・・・あの人形は生きている。
もしかしたらまだ存在するかも知れない。
いや・・・多分どこかに存在する。

正直言って俺は怖い。

幼い頃あの人形に巡り合ってしまった事が怖い。
あの人形が俺の事なんか覚えてなければいいと心底思う。
なんであの日・・・・とか・・・無意味だな。
あまり考えない方が良いと思うんだけど・・・頭のどこかでいつも考えてる気がする。
ノイローゼかこいつ?って思うだろ?
俺は普通の市松人形とか別に怖くないんだ。
なんとも思わない・・・恐怖画像に加工されてても何も感じない。
俺が怖いのはあいつだけ。
あいつが怖過ぎて他がまったく怖くない位あいつが怖い。
こんな事はこんなとこ以外では誰にも言えないんだ・・・。