430
うちのオカンは昔からいわゆる霊感的なものが強い。
最近はそんな話をする機会もあまりないのだが、
これはオレが幼稚園の頃の話で、経験したのはオレ、になるのか。

オレは三兄弟の長男で、当時まだ末っ子の弟は生まれていなかった。
たまにオカンの実家であるお寺に里帰りしていたのだが、
オカンは自分の生家であるにもかかわらず、
「ゆっくりしてけ」と祖母に言われても、泊まるということをしなかった。
どんなに遅くなっても日帰りだ。

でもある時、何かの都合で帰れなくなり、
オレたち兄弟ふたりとオカンは泊まることになった。
オレは初めてのことだったのと、
寝ることになった部屋が本堂へと続く廊下の手前だったので
なんとなく怖くてなかなか寝付けずにいた。
本当はサッサと眠りに落ちたかったのだが、
周りの人が眠りに落ち、寝息が聞こえ出すとますます落ち着かない。
寝よう寝ようと思う余り、気持ちが焦って余計に眠れない。

やがて眠りの縁からスーッと落ちていきそうになるが、
なぜかまた戻って来てしまい、暗い廊下の先を見やって
もう一度落ちていきますように、と願いながら布団を被る、
そんなことを繰り返していた。




431
また眠りに落ちかけては戻り、
心からここに泊まることになったいきさつを悔やみ、
ふと廊下の方を何気なく見た。
廊下には雨戸を入れてあり、所々に節穴が空いている。
そこに外から青白い光が差し込んでいるのだ。
(やった、もうすぐ朝だ)

不意にその光量が増した気がした。
(ん?)
布団の中から目を凝らすと、今度は廊下の先にある本堂の方が明るい。
そこで少し妙なことに気がついた。
寝ている部屋は廊下の手前なのだが、
本堂とは逆方向の台所側は夜の暗さのままなのだ。
もう一度本堂の方を見てみた。

(あれ?)
青白い光の中で、本堂と廊下を句切る、障子の格子が見える。
その障子が動いたように見えたのだ。


432
更に目を凝らす。
動いてる。
障子がまた少し開いた。
ついに障子が半分ほど開き、向こうにかすかに青白い光に照らされて
本堂の一部が見えている。
するとその開いた障子から、白い着物を着た誰かが本堂から廊下へ出てきた。
するするっと。
(お爺ちゃん?)
祖父が見廻りをしてるのだろうか。
いや、違う。
住職の祖父には髪がない。剃髪だ。
その誰かは髪が長い。

廊下に出てくると、それは一旦立ち止まった。
周囲を伺っているように見えた。
オレはオカンに知らせようとして、布団の上に起き直り、オカンを揺さ振った。
起きない。
普段はちょっとした物音でも起きるのに、全く起きる気配がない。
声を掛けようとしてオレは焦った。
声が出ない。
(あああああああ!!!!!)
声が出ないのだ、叫ぼうとしても声が出ない。
思いっきり揺さ振って、有りっ丈の声を出そうとしても、掠れた声さえ出ないのだ。


434
廊下の端にいる例の白い着物を見てみた。
顔なんかは分からない。
なのに・・・。
目があった気がした。そう思った。思ってしまった。
次の瞬間、それはこちらに向かって歩き出した。
長い髪、白い着物、白い足袋、
それが廊下を摺り足のように、こちらに向かってきたのだ。

オレは必死だった、泣いていた。
泣きながら絶叫した、はずなのに声は出ない。
口をパクパクさせるだけ。
オカンは揺さ振っても起きない。
もう完全にパニックだった。
白い着物の方を見た。
摺り足が早くなった、こちらに向かって速度を上げた。
声が出ていたなら、ギャーギャー喚いていただろう。
それは両手をこちらに突き出し、小走りに近い程の速度で向かってきた。


435
オカンが不意に起きた。
その瞬間に声が出た。
自分でも耳を劈くんじゃないかと思えるほどの大きな声が。
オカンにしがみつき、泣きわめき、
「いる!いる!」と廊下を指差した。
オカンはオレをギュッと抱きしめて、耳元で「大丈夫大丈夫」と暫く囁いてくれた。
やがてしばらく時間が過ぎ、オカンはオレを抱き起こし、
「なんにもないよ」と廊下の方を見せてくれた。
そこには白い着物はもちろん、外から差し込む光もなかった。
寝付けずにゴロゴロしていた時と同じ、真っ暗な廊下だった。

オレは必死になって自分が見たもの、どんな状況だったのかを訴えた。
するとオカンは今度は
「あんたは何も見てない!見るはずがない!そんなものはいない!」と
かなり強い口調でオレに言い聞かせた。
ひくひくと吃逆を噛み殺しながら、オレはオカンの顔を見つめるばかりだった。
ただ、廊下の先にあった障子は、開いたままになってた気がする。


438
>>430
それって神様か何かじゃない?>白い着物の男
そこのお寺に祀ってる?神様とかその使いのか…
悪いものじゃないと思うけど


459
>>438
そうなんですかねぇ・・・
オカンがあんまり実家に帰りたがらなかったのは、
こういう事態が起きることも理由だったのかな、なんて思ってたのですが。
訊いても「もう忘れたw」としか答えないので。



440
神様だと、下手すると「気に入った」てんで連れて行かれる場合もある。







ほんのりと怖い話スレ その74