790 2017/06/16(金)
 一人暮らしをしていたとき、奇怪な音が頻発する部屋に当たったことがある。
例えば、リビングでくつろいでるときに玄関を開ける「ガチャッ」って音がしたり、
いきなり台所から「ジャー」って水が流れる音がしたり。
アパートの一階住まいだったので、生活音系なら隣の住人かな?で済ましていたんだけど、
それでは納得できない音が一つだけあった。
それは、真夜中に押し入れからする「コン・コン・コン・コン」という音。
金槌で何かを打ち付けるような音で、上の階の方からする。
始めの頃は「上の階の住人うるせーな、真夜中に何やってんだよ……」と思っていたが、
それ以外はすごく住みやすい環境だったので、近隣住民と波風を立てたくない一心で黙っていた。
夏のある日、休みだったので夕方にネットしてのんびり過ごしていたんだが、
突然玄関の方からフッと冷気が来た。
パソコンに向き合ってる体勢だと、向かって左に玄関と隣接してる簡易キッチンがあり、
顔を左に向ければすぐ確認できるので、気になってチラッと視線を送った。
そのときは特に変わったところはなかった。
しばらくして、今度は申し訳程度に玄関のドアが「コンコン」と鳴った。
ビクッとして玄関を確認したが、それっきり無音。
訪問者だったら名乗るだろうし、気にしないでおこうとパソコン画面に向き直ろうとした瞬間、
キッチンの床に置いてあるスーパーの袋が「ガサガサッ!」と鳴った。
そのとき、袋の中で何かが動くのが見え、また冷気がフワッときた。
一瞬冷や汗をかいて固まったが、
もしかしたら冷蔵庫がよく閉まってなくて、ゴキブリなんかがゴミ袋を漁っているのではないかと思い、
立ち上がってキッチンを確認しにいった。



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ゴミ箱代わりにおいてある袋なので、口を縛っていない状態でバサッと床に置いていたのだが、
二歩半くらい近付いたところで、中身と目が合った。
髪の長い女の頭。
髪の長い女の頭が、ゴミと一緒に「ゴロン」と袋に入っていた。
俺が近付いてくるのを待ち構えていたかのように、こっちを凝視していた。
赤い夕日の差し込む薄暗い部屋で、ゴミ袋に入った生首の女と見つめ合う。
呆然としていると、突然「ピロリロリ!」という着信音が響き渡った。
固まっていた身体がビクッと飛び上がって、夢中で携帯をとった。
近くに住んでる友人からだった。
俺は友人の声を聞いているうちに凄まじい恐怖が襲ってきて、半泣きになりながら今あったことを説明し、
家に来て欲しいとお願いした。
友人は半信半疑で笑っていたが、面白そうだと思ったのか嫌がらずに家に来てくれた。
一緒に部屋を確認したが、何度確認してもゴミ袋に女の顔と見間違えるような広告やゴミは入ってなかったし、
冷蔵庫も開いてなかった。
しかし、この件で「このアパート実は事故物件なんじゃないか?」という疑惑が強くなったので、
しばらく友人のところから仕事に通わせてもらうことにした。
友人と二人で手分けして荷造りをしていたんだが、その最中アパートの管理会社からTELが入った。
どうやら、上の階の住人から、金槌の音がうるさいと苦情がきてるらしい。
え?と思い、「すいません、その音の件は知ってますけど、俺は今使ってないですよ?
むしろ毎晩深夜に上から聞こえるので、こちらから苦情を入れようと思ってたくらいです」と説明すると、
「ちょっとお待ち下さい」と言った後、折り返し電話するので家にいて欲しいと言われた。
友人と顔を見合わせつつ、なんだ?と思っているとまた電話が来て、
確認のために、上の階の人の許可も得て押し入れを点検してもいいですか?と言われた。
どうやら二階に住んでいる女性がだいぶご立腹らしい。



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しばらくして管理会社の人が到着し、俺の上の階に住んでいる女性と四人で
女性の部屋の押し入れ、俺の部屋の押し入れを確認したが、双方どこにも異常は見つからず、
音の原因は分からずじまいだった。
一応最後に、俺の部屋から押し入れの天井の板を剥がしてみて、
内部の基礎などに異常がないか調べてみようということになり、管理会社の人が押し入れの板を外し始めた。
アパートは木造なので、構造上女性の部屋の押し入れ床と俺の部屋の押し入れ天井は30cmくらい空間が空いている。
管理人さん曰く、そこに張り巡らされた基礎部分の木をネズミがかじっている音ではないか、とのこと。
俺は直感的に(あれはネズミがかじって鳴るような音じゃない)と思った。
女性も同じらしく、釈然としない表情をしていた。
ようやく板が外れて、管理会社の人がライトで中を照らしてみたとたん、「うわっ!」と悲鳴を上げた。
そこには、見える範囲一面に「お守り」が打ち付けられていた。
基礎の柱に、何重にも折り重なってびっしりと。
それらがライトで照らされた瞬間、あまりのおぞましさに全身に鳥肌が立った。
女性も悲鳴をあげる。友人も顔色が悪くなり「なんじゃこりゃ……」と絶句していた。
管理会社の人も顔が引きつっていて、その場に異様な空気が漂った。
その日はとりあえず解散になり、管理会社からは後日また連絡しますとだけ言われて終わった。
女性は怯えきっていて、管理会社から連絡があるまでホテルに泊まることにしたそう。
俺も当初の予定どおり、必要な荷物だけもって友人宅に非難し、しばらくはそこから職場に通った。



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後日、管理会社から連絡があり、業者を呼んで打ち付けられていたブツは全て撤去したとのこと。
管理会社の人には申し訳ないが、当然引っ越しさせてもらった。
あんなおぞましいものを見た後にあそこに住み続ける勇気は絶対にない。
管理会社の人によると、あそこに釘を打ち付けるには、あのときしたように板を外す必要があるらしい。
しかし妙なことに、俺の部屋にも女性の部屋にも、板を剥がして再度張り付けた形跡がないとのこと。
「事故物件とかじゃないんですか?」と聞いたが、
「いや、誰か亡くなったとかそういうことはないです。
だから今回このような結果になるなんて思ってもいなくて驚いています。」と言っていた。
それ以外の情報は全く分からないし、知りたくもなかったので詮索せずにさっさと引っ越したが、
多分管理会社の人の言うことは本当なんだと思う。
過去にあの部屋に住んでいた住人が、あそこにアレを打ち付けて出て行ったのだろう。
きっとその人は黒髪の長い女性で、今は生きていないに違いない。
事故物件以外にもヤバい部屋はあるので、アパートを借りる時は気を付けた方がいい。
ちなみに、管理会社の人曰く、打ち付けられていたお守りは全て「縁結び」のお守りだったらしい。







引用: 死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?346