1
学校で配られた夏休みのしおりには
「地蔵山に入るのは禁止です。地蔵山で遊ばないようにしましょう」
と書かれていたが、俺たちにとってそれはGOサインと同じだった


7
地蔵山は、特に地元の年寄りに畏怖されていて、「あの山は崖があって危険だ」とか
「野犬が巣食っている」とか「祟りがある」「化け物がでる」「神隠しにあうぞ」
色々な噂が主に年寄りによって流されていた


9
小学生だった俺たちはもろに年寄りの影響を受けやすい立場にあった。
「おじいちゃんに聞いたんだけど・・・」と低い声音で話し出せば大抵地蔵山の話だったし、
月に一回作る学級新聞には必ず地蔵山の怖い噂が掲載されていた


13
だが不思議と地蔵山に侵入しようとする子供はいなかった。
それは単に怖かったからかもしれないし、地蔵山には道らしい道が無かったからかもしれない。
獣道さえ無くて、そこに侵入するにはとにかく草をかきわけて木をよけ、
虫にさされながら進むしかなかった


15
だが俺たちは違った。勇気があったわけでも山歩きに慣れていたわけでもない。
確信があったからだ。俺たちのグループのうち二人が、夜に地蔵山のてっぺんに
何かの明かりを見ていた。


17
「絶対何かあるぜこれは!」
丁度、学校の怪談や怖い話が流行っていた頃だった。
そのせいもあってか、俺たちはやけに興奮していて、その決意は固かった。


19
凄まじく晴れたその日、コンパス、水筒、地図、思いつく限りの色々なものを持って、
俺たちは出発した。
地蔵山に入り口らしいものは無い。適当になだらかなところから登り始める。


21
うっそうとしげった木のせいで、辺りは少し薄暗い。
意味もないのに地図を見たりコンパスを見たりしながら、俺たちは進んでいった。
長袖できたので汗がダラダラ流れ落ちる。


22
俺は最後尾を歩いていたので少しはましだったと思うが、先頭のやつはすごく歩きにくかっただろう
長い木の棒で草や蜘蛛の巣を掻き分けながら、ゆっくりと進む
終始無言というわけではなかったが、みんな口数は多くなかった


23
時刻は昼前だろうか。頭上に差し交わされた深緑の木々のせいで、日差しはあまり感じない。
セミの声が延々と鳴り響き、みんなの「くそっ」「よいしょ」という短い声だけが聞こえる
もう一時間は歩いたはずだ


24
誰かが あっ と声をあげた。先頭のやつだろうか
「見ろよ、看板があるぜ」
見ると、前のほうの木の幹に板がくくりつけてある


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白い板に赤い文字で、
「山へ入るな」
・・・・こんな随分入ったところじゃ意味ないだろ・・ふもとに置いとけよ・・


27
こえーwwとか言いながら進む。
あまり高くなかったテンションが上がり始めていた。
「頂上まだかよー」「てか頂上向かってるか?さっき下ってなかった?」「気のせいだろww」


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しばらくそんな調子で歩いたところで、先頭のやつがまた あっ と声をあげた。
「なんか見える・・・なんかあるぞ!!」
言ってスピードをあげる。ちょ なんだよ と言いながらそれに続く


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いきなり視界がひらけた。おもわず転びそうになる。
木と草がとぎれた広場。地面はさっきまでと違い、砂利が敷かれている。
しかも、そこには・・・・・・なにかの建物が。・・・アパート?


32
「な、なんだこれ アパートか?」
誰かが言って、みんな一斉にしゃべりだす
「アパートってなんでこんなとこにあるんだよ?!」
「人住んでんの・・・?」
「住んでるわけないじゃん!道がねえんだぞ」
「そうか!ヘリできてるんだよ!」
「んなバカな!!!」


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ぎゃーぎゃー騒ぎながらアパートに近づく。
やはり人は住んでいないようだった。コンクリートはひび割れ、ところどころコケまで生えている。
生活の匂いはしない。


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「入ってみるよな?」
俺の問いかけに、数人がうなずく。マジで・・・はいんの・・・とか言ってるやつはとりあえず無視、
階段に足をかける。


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一階の101号室。表札には・・・・。・・・・・?
「あんみん?」
俺がつぶやくと、みんな ? というふうに表札を見た。『 安眠 』


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よくわからない。気にせずに、ドアに手をかける。・・やはりというか、開かない。
押しても引いても駄目で、みんな順番に挑戦したが無理。諦める。
102号室。これもダメ。当然か


39
そこでふと表札を見て、少しびびった。
『 安眠 』
なんなんだこれ・・?また安眠。まさかと思い、103、104も調べる。


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予想通り、103も104も安眠。もちろんドアは開かない。
二階、三階と先に行っていたやつらから、全然開かねー と声が聞こえてきた。
まあ入らないでもいいか と諦めかけたとき、三階にいたやつが おおっ と声をあげた。


42
「開いたぞーーー!304号室!!」
マジで!?と、急いで階段を駆け上る。
上っている最中に確認したが、どの部屋の表札にも『安眠』と書かれていた


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304号室の中は、雑然としていた。しかれたままの布団、テーブルの上には食器が置きっぱなしだ。
だが、どれもほこりをかぶっており、長い間そのまま放置された化石のようだ。
みんなおもしろがり、そこらじゅうをひっかきまわした。


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304号室の中は、雑然としていた。しかれたままの布団、テーブルの上には食器が置きっぱなしだ。
だが、どれもほこりをかぶっており、長い間そのまま放置された化石のようだ。
みんなおもしろがり、そこらじゅうをひっかきまわした。


46
長い間触れられていないということを除けば、そこは普通の部屋だった。
ただ少し不自然なのは・・・窓の側に置かれた、望遠鏡。
窓を開けてレンズをのぞいてみるが、壊れているのか何も見えない。


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「おい・・・あれ、なんだ?」
一人が、窓から外を指差して、言った。
ちょうど 望遠鏡が向いていた方向・・・


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あたりはいつのまにか夕暮れがせまり、少し薄暗くなってきている。
まだ昼ぐらいだろうと思っていたのに、思ったより長い間上ってきたということか。
薄暗いためよく見えないが、あそこにあるのは・・・


51
「石像・・?」
誰かが言い、俺が言葉を重ねた。
「いや・・・もしかして、地蔵・・?」


52
そこは丁度、アパートの裏にあたるところだった。
近づくにつれ、予想は確信に変わる。それは確かに地蔵だった。
勢いこんで地蔵の前に立った俺たちは一瞬、言葉を失った。


『山へ入るな』


53
登って来るときに見たのと同じ看板・・・そして
二体の地蔵にはさまれるようにして伸びる、石の階段。
木々のトンネルのようになっているので三階からは見えなかったが、随分立派な石段が、はるか上へと続いている。

ここが頂上ではなかったのだ。
いや、というより・・・


55
「行くだろ?」
一人が言い、前に進みだす。それについてみんなも石段に足をかけた。
俺は相変わらず、しんがり。


57
地蔵の前を通り過ぎた瞬間、何かが変わった気がした。
寒気がする。帰りたい。今更だが、この夕闇が怖い。
あたりはそんなに暗いわけではなかったが、この石段は暗い。こんなところを上るのか・・?


58
同時に、さっき思いついた考えも、確信に変わろうとしている。
「山へ入るな」の看板。二体の地蔵。
つまり、俺たちが登ってきたのは地蔵山でもなんでもない。ただの丘か名も無い山だ。

たぶん、ここからが、地蔵山なのだ。


61
石段は所々崩れかけていた。
たぶんしばらく、人が歩くことはなかったのだろう。
もしかしたら『人以外の何か』が歩いているのかもしれないが。


62
明らかにさっきと違うその雰囲気は、そういう妄想さえ生む。
誰も何も話そうとしなかった。
しばらくして、ついに石段が終わりを告げて、沈黙は少しの間を置いて破られた。


64
「家・・?」
誰かが、ぽつりと呟いた。
家のような、小屋のようなものが、そこに一軒だけ建っている。


65
近づいてみると、小屋はぼろく見えて意外と頑丈そうだった。
少なくとも木造ではない。一階建てだが、なるほど小屋というより家かもしれない。
入り口は石段とは逆のほうにあった。


67
表札がかかっている。これはやはり家なのだろう。
「人身御供」
なんと読むのかは分からなかった。ただ、名字のようには思えない。


70
誰も中に入ろうと言い出さなかった。
あたりは暗闇が増してきていて、それだけで俺たちは限界だった。
「入る・・か?」それでも俺は一応聞いた。


72
沈黙の後、一人が「帰らね・・?」と言った。
みんな同じ気持ちだったのだと思う。あとは何も言わずに、雰囲気は帰る方向へ向いた。

そのときだった。


74
物音が聞こえた。
と俺は思った。だから小屋のほうを振り向いた。気のせいなのを確かめようとして。
同じタイミングでみんなが小屋のほうを向いたのを見て、
小屋の中から聞こえる音が急に現実的になったように感じた。


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ザッザッ・・・ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ!!!
足音のような音の後、入り口の戸が物凄い音をたてて揺れ出した。
もう間違いなかった。


76
後はもうわけが分からなかった。がむしゃらに走り、石段を駆け下り、
山を転がり下りた。
気が付くと、見慣れた道路の上で息を切らしていた。


78
これで俺の体験は終わりだが、この話には後日談がある。
疲れて家に帰ると、友達の家から電話がかかってきた。
「○○がいない!!山においてきた!!」


80
下りきったときは安堵で気付かなかったが、
一人足りなかったのだ。
警察にも通報して、大騒ぎになった。


82
ところがそいつは夜に、ひょっこり帰ってきた。
わけのわからないことを口走っていたが、
落ち着いてから俺たちが話を聞くと、そいつはこう話し始めた。


84
そいつは、小屋から逃げるときに石段とは逆に走ってしまったのだという。
しばらくするといきなり斜面があり、転がり落ちてしまった。
するとそこには、村?のようなものが広がっていた。


85
暗くてよくわからなかったが、とにかく古そうな家がいっぱい並んでいたとそいつは言った。
人が住んでいたかどうかはわからない。
たぶん、住んではいないだろうと思う。(住んでるわけねーwwと俺たちは乾いた笑いをあげた


87
転がり落ちた斜面は急すぎて登れないので、
登れそうな斜面を探して登り、(村を横断して逆側の斜面を登ったなどと言っていた)
そのまままっすぐに行くとまた降りる斜面があったので降りると帰ってこれたのだという。
無茶苦茶な話だ。


88
みんなは、夢でも見たんじゃねえの?とか言っていたが、
俺はもしかしたらと思う。
もしかしたら、あれは山ではなくて、その村を囲んでいる壁なのではないかと。
なんらかの理由で囲まれた村は、あの地蔵山の中で閉塞した生活をしていたのではないか。


90
この町の航空写真を探してみたが、それはなぜか見つからなかった。
大騒ぎして警察まで動員してしまったとあって、地蔵山への立ち入りは厳重に禁止された。
もし入れたとしても、俺は二度と行きたいとは思わない。
人身御供の意味を調べて、仲間と顔を見合わせたぐらいで、このこととはもう関わっていない。


92
人身御供についてくわしく


93
>>92
ひとみ-ごくう 4 5 【人身御▽供】

(1)神への供え物として人間の体を捧げること。また、その人。生き身供。いけにえ。人身供犠(じんしんくぎ)。

(2)ある人の欲望を満足させるために、またある事を成就させるために犠牲となること。また、その人。


96
>>93
ヒィィー


104
実はこの1がその村の住人であることは誰もしらない・・・


105
安眠はなに?


108
>>105
神様にその身を捧げた人間達が安眠しているとかじゃね


115
てか、つまり地蔵山に囲まれた村に住んでいた人か神かに、生贄を捧げてたってことじゃね?
アパートに住んでた人たちは生贄を監視している人か、もしくは生贄予備軍とか。
なんかゾクゾクするねこの話


118
>>115
おおお そういうことか。
村には何が住んでいたのか・・・なぜ消えたのか・・・・
謎は深まるばかり


125
これは・・・うまいな。
しかも境界の概念も組み込んでるってか。


126
>>125
境界kwsk


129
>>126
うまく言えないけど、まあ国境線があるだろ?
線からこっちは自分の国、線からあっちは相手の国。じゃあ線の上は?
その曖昧なものが境界。
それに、地蔵は境界をあらわすんだよ。
さらに、夕方って時間も境界の時間。昼(人間の時間)と夜(化け物の時間)の間の時間だからな。

黄昏時っていうのは、誰そ彼刻、出会う相手が人か魔物かわからない、ってとこからきてるしな


130
>>129
やべえ…鳥肌たった


151
地蔵山が実話か否かは置いといて

明らかに空気が変わる場所ってあるよな


152
>>151
それが境界なのかもな…


153
>>151
あるな
ここからはヤバいってなんか本能というか
生物として察知するときはあるよな


163
つまり早い話死んだ人が寝てるのでそっとしておいてくださいよ ってことでいいの?
昔住んでた人を守る為の壁なのか、危ない「人ではない何か」を封印するための壁だったのか



167
>>163
どっちともとれるよね
でも、人身御供を村に捧げてたなら、後者かな
あ、でも生贄が住む村って解釈もあるよね


168
村があることよりも石段の上にあった建物の方が気になる。

村の監視小屋?


169
>>168
生贄がそこに入れられるんじゃないの?
そして夜になると・・・ひぃぃ・・・


171
つまりつなげると中に生贄とする人間をぶち込んで監視したと
で、関係ないヤツが間違えて入る可能性もあるから山に入るな と

安眠の部屋は犠牲者の保留の人たちの客室?
ってそれは違うだろうがwww
だから人気がなかったのか。石段が崩れていたのは犠牲者を大量におくるからそのうちに崩れたのかな。やっぱ謎だ


221
今読み終えたが・・・
寒気がしたぜ





引用: あの夏休み、俺たちは禁忌の山に登った