501
ハチ乃はおでこに茶トラのハチワレがある猫だ。
背中にも『乃』の字に似た柄があって、それでハチ乃と名付けた。
猫としてはわりと普通の人柄。
猫にも人にもフレンドリーで、実は結構賢いところも。
そんなハチ乃の一番の特徴は生霊が飛ぶ(?)こと。

テーブルを挟んで来客と話していると、
食器棚の上で寝ているハチ乃がテーブルの下から覗いたり、
尻尾をぴんとたててそばを通ったりする。
子猫の頃からそうだった。
外で遊んでいるはずの迷い猫の姿を室内で見たり
玄関のドアを開けた瞬間足元から飛び込んできたはずの子猫が、家中さがしても見つからなくて首をかしげたものだ。
迷い猫を保護し我が家の猫にしてからも、かなり長い事その幻猫の正体がハチ乃だとは気づかなかったが。

ある日、友人が三人訪ねてきた。
抜け毛の季節だったのでハチ乃を閉め出してお茶をだす。
ドアをひっかいて入れてくれろと鳴くハチ乃。無視してもしつこく鳴き続ける。
ハチ乃の必死さが伝わってきてそれがどんどん大きくなっていった瞬間、「来たっ」と客二人がさけんだ。
私も叫んだかもしれない。
ハチ乃がすごい勢いでドアをあけて部屋に飛び込んできたのだ。

だがドアはあいてなかった。
ハチ乃は閉じているドアの向こうで小さく悲しげに鳴いて廊下を遠ざかって行った。

「…今ドアあいてハチ乃さん来たよね?」客その1が言う。
客その2「…うん、来た。いつもよりちょっと大きなサイズのハチ乃さんがピョーンて入ってきた」
私「わりとすごい勢いでドアが開いて大型犬くらいのサイズのハチ乃がダダーッて」
客その1「牛くらいの大きさだった。突風のようなすごい勢いだった」

客その3(猫がドアの外で鳴いて、その後遠ざかって行ったけど、
みんなは一体なんの話をしているの !?怖い)



502
ハチ乃は四歳になったある日から帰ってこない。
ハチ乃が帰ってこなくなった数年後、夢を見た。
自転車の前かごに一匹の白黒い猫を乗せて旅をしている夢だ。

好奇心が強くリラックスした元気なその雄猫と何日かかけて到着したのは私の実家。
現実では離れの南向きの六畳間にあたる場所に自転車を止める。
夢の中ではその六畳間は、丈の低い草が生えてやや乾いている気持ちの良さそうな草原だ。
草むらの中からハチ乃があらわれた。

ハチ乃と目が合った瞬間、
その草原は猫の天国で、氏んですぐの猫はみなそこへ行き、心や身体の傷を癒すこと、
ハチ乃はじめ私と縁のあった猫達は、傷が癒えたあともそこで私を待つこと、
だから私が氏んだときはその猫の天国に立ち寄ってぜひみんなと会ってほしいこと、
「あなたに会えるのをみんな楽しみにしています。今生きているあなたの猫達が亡くなっても私がここへ案内しますから安心して立ち寄ってください」
ハチ乃の瞳が私にそう伝えてきた。

自転車の前かごから白黒い猫が飛び降りてハチ乃にかけより、
2匹がお互いの匂いをかいで草原の中に消えていったところで目が覚めた。
その夢を見た数日後、夫は職場で私の実家近くの支店へ転勤が打診された。
私実家は農業をやっていて、前の年に結婚してゴールデンウィークに帰省した際、農作業を手伝って、それが大変気に入っていた夫は転勤を承諾、私の実家へ引っ越して離れに夫婦で住むことになった。
そこは夢の中で猫の天国があった場所だ。

夫に例の夢の話をしたら
「その白黒い猫の柄と特徴は、僕が初めて飼った猫とそっくりです。偶然ですね」と少ししんみりしていた。



506
>>502
ハチ乃は4才で氏んじゃったの?
なんか心霊ちょっといい話思い出す。
時々まとめサイト読んで泣くわぁ。


507
>>506
はい。四歳でしんじゃったんだと思います。
あとで思えばアレもソレもお別れの挨拶だったんじゃない!?的な小さな思い当たりも
少しばかりありました。



508
白い猫 前編

その日も友人が遊びに来ていた。
以前、夫の夢の中に出てきた人物の年恰好を言い当てたり、
部屋から閉め出されたハチ乃が「牛くらいの大きさで突風のように飛び込んできた」と証言した人である。
他愛ないおしゃべりをしながら開け放してある窓をちらちらと気にしている。
窓の向こうは1メートル先に隣家の壁。
近くで小学校低学年の子供たちが落ちている古ガラスを踏み割って遊んでいる耳障りな音が入ってくる。
やがてガラス割りに飽きたのか子供らの声が遠ざかっていき客はほっと息を吐いた。
「怒っていたの、ガラスが割れる音に」
「ああ、耳障りだったよね」
「私じゃなくて猫が。今日この部屋に入った時からそこの窓枠に座っている白い猫が見えたの。。元がペルシャなのかぼやけててそう見えるのか、白いフワフワした猫。
強くはないけどあまり良くない。何か恨んでる猫が、ガラスの音に怒ってて」
言われてみれば、今日はいつもより窓辺が明るく感じられてたなあ、と思うが、
私には何も見えない。
しばらく別の話をしているうちにその猫は見えなくなったそうだ。

数年後、隣の市に建つ古家に引っ越した。
やはり霊感があるという別の友人が、四歳になる娘さんを連れて泊まりに来た。
お行儀がよくて物怖じしない良い娘さんだが、部屋から出るのを怖がる。
「だって部屋の外にいる白い猫さんが怖いの」。
猫は二歳から八歳まで四匹飼っているが白い猫はいない。
友人が娘に「怖くないわよ、あらこっち来ちゃった。
ほら、ぼやけてるし全然たいした事ない。蹴ったら消えちゃったでしょ」と
足元を見ながら言う。
数日滞在している間、友人の娘さんは「白いふわふわした猫さんがいるから
そっちは通れない」と何度か言っていた。
友人は「猫飼ってると見えない猫も増えるよ。だって餌も寝床もあるし、猫好きもいるし」。
その弱くて、あまり良くない白いふわふわした猫は、時々外に出て近所を歩いてたり
するけど、たぶんこの土地由来ではなく私の家に寄ってきたのだろうという事だった。



509
白い猫 後編

十数年後、私は実家の離れで夫と娘と暮らしていた。
小学一年の娘が、ある日妙な事を言い出した。
「幽霊ているのかな。私が見てるのって幽霊?」
その日の午後、いつもの学童保育でともだちの後ろに和服姿の童女が見えたのだそうだ。
童女はモノクロでしかものっぺらぼうであったそうだが
「でもにこにこ楽しそうで可愛かったよ」。
その日から娘は類似の発言をしばしばカマすようになった。
突然黙り込み「…ねえ、お母さん、幽霊って見たことある?」一日に何度もそう言ってくる。
可愛いものばかりではなく怖いものも見え、害意や敵意を抱いていそうなものもいるらしかった。
特に家の廊下の、隅の暗がりに怖いものがいるらしい。
「トイレに行くとき困るの」。わかる。築百年超の母屋はもちろん、築五十年の離れも
相当に怖く、私の姉などは里帰りの際いまだに夜一人でトイレに行けない。
幻覚か思い込みか嘘か、あるいは本当に何かを感じ取っているのか知らないが、
七歳になったばかりの子供が怖がるのも無理はない。

「でもね、猫たちがついてきてくれるから夜でも一人でトイレ行けるのよ」。
去年氏んだミケ子やトラ次郎や見覚えのない白地に茶色いハチワレの猫、
それに白いふわふわの猫たちがついてきて守ってくれるのだそうだ。

いつも人から聞かされてばかりで一度も見たことのない白いふわふわに
久しぶりに再会した気分になった。






引用: 不思議な体験や霊感のある奥様 2