534
昔、某大手不動産会社の埼玉の営業所に勤務してた時の話だ。

不動産業界の中にはいわく付きの物件ってのが存在したりする。

例えば埼玉だと蕨市の某マンションの6階の角部屋、川越市の某マンションの301号室
入間市のある場所に建ってる一戸建て、和光市新倉の一戸建て、川口市青木にあるとあるマンションの4階、エレベーター脇の部屋・・

いずれも自サツがあったか、火事や事故で人が亡くなった物件だ。

そういう物件でも売りの依頼がくるとなんとか売らなきゃいけないのが辛い。
人死があったマンションやら一戸建てなんて好き好んで買う人間はいないし、いたとしてもよっぽどの変わり者と相場が決まってる。

それは蕨市にある某マンション。
3ヶ月前に、そこの住人が借金を苦に部屋のベランダで首をくくってたっていう話だった。
発見したのは、その自サツした本人の娘さん。

それから3ヶ月後、結局、借金返済の為に売らざる得なくなり、自分の勤めていた会社がそのマンションを預かった。

その後、売るならやっぱりオープンハウスをやらなきゃという事でチラシをすり、新聞に入れ、準備万端、さぁ、売り出し当日。

その日は、朝から日差しの強い日でクーラーのない部屋の中は蒸し風呂状態。
でも、そこは気合いを入れて接客、接客また接客。

そんなこんなで一日を過ごし、さて、終了の5時になる寸前…
『こんにちは~』と中年男性の声。
LDKのガラスドアの向こうの玄関に立つ人影。
スリガラスの向こうにおぼろげに見える姿は、明らかに男性。

『どうぞ~』愛想よく返事をし、入って来るのを待っていると…
その人影が、廊下を挟んだ洋室と洗面所を行ったり来たり、行ったり来たり
行ったり来たり、行ったり来たり……
延々と繰り返してる。

『なんだ、こいつ…?妙な事してる奴だな』と思いつつも、顔には満面の作り笑顔。
『どうぞ~』って声をかけても、洋室と洗面所の間を行ったり来たり、行ったり来たり
行ったり来たり…


こっちも、いい加減、業を煮やして
『ガチャ』

ドアを開けるとそこには陰気な顔をした年の頃なら50から50後半くらいのオヤジが立ってた。




535
『顔色の悪いオッさんだな…』なんて思いながらも、そこは営業。

『今日は暑いですね ^^』オヤジ無言…
『お近くなんですか? ^^』オヤジさらに無言…
『物件をお探しですか? ^^』無言…
『この部屋っていい部屋ですよ。日当たりもいいですしね ^^』ひたすら無言…

で、さして広くもないLDKの中を視線を空中にさまよわせたまま、

ゆ~っくり
ゆ~っくり

グ~ルグ~ル
グ~ルグ~ル…

歩き続けてる。何を話しかけても、何を聞いても無言…
無言のまま、部屋の中をグ~ルグ~ル、グ~ルグ~ル…

こっちもいい加減、頭にきて
『からかってるんなら帰って貰えません?』って怒気を含んだ声で言うと
オヤジの歩みがピタッと止まって腕がス~ッと上がって、バルコニーの一点を指さしたまま

『ここ………』

って一言。

『え?、何がここなんですか?』って聞き返す俺。

その次の瞬間、玄関から『すみませ~ん、見せてもらえますかぁ~』っていう
女性の声が。
その声に『は~い、ど~ぞ~』って応えて、一瞬、オヤジから目を離した。
で『あのねぇ、おじさん』って話しかけようと振り返ると…


誰もいない・・

そういう時って不思議なもんで『あれ~~???、どこ行った???』ってなもんで
『怖い!!!』って感覚には全くならない。
『ったく、ふざけたオヤジだな!!』っていう程度。

次のお客さんを接客し終わって『ど~も~ ^^』って送り出した瞬間、ゾッとした。

ああいう、あり得ない現象に遭遇した時って、きっと脳が理解する事を拒否するんだな。
でも、ある瞬間に全てを理解する。

それからは、パニックなんてもんじゃなく、ホントに脱兎の如くってのは、この事かって位の勢いで準備した物は全部、置いて部屋を飛び出して会社に帰った。

まぁ、後日談もあるけど、実在する人物だし関係者もいるんで、ちょっとまずいんで割愛します。
霊だ、幽霊だなんて信じないし、あり得ないって思ってるけど、それ以降に起こった事は、自分でも全然、説明がつかない。

それから3ヶ月後かな。不動産から足を洗ったの。







引用:【心霊】怖い【オカルト】