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バイクで一人夕方から朝方にかけてたまに走りに行ってた時、
真夜中にナビにつられて知らない峠道を走ることになった。
爆音とか走り屋じゃなくて、静かなソロツーリングでなんとなく山の方をゆったり流してた。

まあ夜中に走る事が多くて山道メインだから、
峠道も注意して安全に走ってたんだけど、
曲がりにくい坂道の急カーブを抜けた先で何かゾワッとした。
山の寒さを超える寒気と悪寒。
直後に突然エンストした。

エンストするミスなんてしてないし、ガソリンもまだある。
突然の真っ暗闇、あれ?ライトも消えている。
キーをoffにしてONに入れるもライトが点かない。
頭が真っ白になり少しパニックになったが、取りあえずバイクを降りて端に寄せた。

携帯を取り出してライト代わりに使ってバイクの確認をするが、
正直こんな時にどこを診ればいいか解らない。
バッテリーを疑ったけど、流石に突然ライトすら点かなくなるほどはないだろうと思った。
ならライトの電球切れか?
キーをONにして、ローからハイにしてみるも点かない。
その時までパニックで気がつかなかったけど、
キーONにした時の作動確認の動作も見られない。
バッテリーから繋がってるケーブルが切れたのか?


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そんな確認をしてると、夏の終わりの肌寒さを感じる風が吹いてきた。
民家のない山の中で街灯も無く、携帯以外には視界を照らす灯りが無い。
やばいなー怖いなーと感じ始めた時、

「あぁぁあぁぁああぁぁー」

と、女の抑揚のない長い声が遠くから聞こえてきた。
歌とかそういうのではなく、ただ あああああ を叫んでる感じ。
この近くに村でもあるのかと考えたが、灯りは見えないし、人が彷徨くような時間じゃない夜中だし、峠道を30分は走ってきてその間に何も見当たらなかった。

「ァァァァァァァアアアアァァ...」

なんか近付いてきてるような・・・
電波はきてるから、まだ使ったことがないバイクのレスキューでも呼ぼうとしたが、
その前にもう一度キーON。
点かない。
レスキューに発信しようとしたが、あれ、ここどこだっけ?
ナビに言われるがままに走っていたので、現在地はおおよそでしか解らない。
峠道に入る前がどの辺りかは解るが、その後30分ほど入った山道でよく解らない。
バイクがエンストした時にナビの電源は切れてる。
携帯の灯りを頼りに電源を入れて現在地の確認をする。


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ゾゾゾ......

ナビの画面には山の中を走る一本の線と自分の位置を示すカーソル、
その近くに表示された「女」という文字が。
山の名前が「女」なのか?いやいやそんな筈は・・・

「ォアアァアアァァァアァ・・・」

うあ、絶対さっきより近づいてるって!!

バイクのシート下を開ける余裕もなく、
ただシートをバシンバシンと叩いて、
キー周りのメーター付近を叩いたりしてキーON!

なんで点かないんだよ!!

ナビを見ると「女」がさっきより近くに来ていた。
嫌な想像からくる寒気、山の中の冷たい風、
ォアアァアアァァァアァという声に、カグブルでさっき走って来た道を見つめた。
真っ暗でよく見えないが、霞がかってるモヤのようなものが見えた。
眠りに落ちるときに感じるようなぼんやりとした視界に似てた。

カーブはすぐそこだから、もし何かが来たら逃げられる距離じゃない。
来るなよ!来るなよ!?
そう思いながらナビを確認。
まだカーブ前には来てないけど、もう暫くしたら出会ってしまう距離だ。
駄目だ!
置いて逃げ出せばいいものを、バイクを押して先へと走り出した。
大事な脚だから当然か。
ガソリンは半分くらい減っていたので、Nにしてれば押せない重さではない。
400ccで良かった。


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「オアアアアァァァォァ」

まだ聞こえる。
そんなに早く近づいてる訳じゃないようだ。
斜面も少なくて移動も早く、「女」の声のする方から少し離れだした。
ナビにも「女」の文字と距離を開け始めているのが確認できた。
真っ暗な峠道、ライトも無しに手押しで進むのは恐怖でいっぱいだ。

しばらく進んだ先、峠道の途中というのにお墓がポツリとあった。
ゾワワワーっと毛が逆立つのを感じたが、
背後の声も聞こえなくなっていたので見ないようにしてバイクを押し進めた。
お墓を越えてまた峠道を進む。
思ったよりも早く進めているのでやれるもんだなと感心し始めたとき、思わず足が止まった。

お墓がポツリとあった。
さっき見かけたお墓と同じような、同じだろ・・・
・・・・・・。
「アアアアオオォアアアアアアアァァァア!」

前から声がした。
ナビには「女」の文字が自車の目の前に表示されていた。
顔を上げた時、声にならないヒュイっと言うような叫び声をあげたと思う。
女の姿をした影が数メートル先に立っていた。
暗くてよく見えないが、女性なのはすぐ解った。
白いモヤモヤとした煙のような霧のようなものがその周りに張り付いていた。


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怖くて頭の中で「ごめんなさい!」を連呼していた。
女は動かない。
自分も動けない。女から目が離せない。

何分経ったか解らないけど、
バイクの重みで我に返り女を見たままバイクスタンドを立てた。
置いていこう・・・
もう身の安全を優先して、バイクもシートバッグもそのままに逃げようとした。
後ずさると、女がオアァォォァアァと叫んだ。
先程見つめ合ったように動かなければ何もしてこない。
なんなんだ。
こんな山の中だしお墓の傍だし幽霊に違いない。
でも話に聴くように近づいて襲ってこないし、無感情で叫ぶ声だけ。
少し冷静になってきた。
襲ってこないなら大丈夫かもしれない。

このまま朝まで睨み合いするかもしれない、息苦しいヘルメットを外して女を見た。
相変わらず動かずそこにいるだけだ。
逃げても追いかけられるし、バイク置いて後ろに戻っても
バイクで30分の距離なんて徒歩だと2時間はかかるだろう。
覚悟を決めた。もうヤケクソだ!
この時のどうにでもなれという気持ちは、氏んでもいいって気持ちなのか、負けねえぞ!という気持ちだったのか解らない。


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前に進んで女に近づいていく。
女は動かない。
更に近づく。
影じゃない、顔はよく見えないけどちゃんと立体感のある女性だった。
女性の幽霊はワンピースってのは本当なんだ。
3メートルくらいの距離まで近づいた時、女性がお墓の方を見た。
そっちを見ると、ビクッとしたが、お墓の後ろに女性の影が立っていた。
視線を戻すと目の前の女性は消えている。

お墓...

導かれるようにお墓の前に立った。
女性は棒立ちのままだ。
こうするしかないと、お墓に手を合わせる。
目の前に幽霊が居るのに何してるんだろう。
なんかお酒で酔ったような違和感を感じた。
どうにでもなれって気持ちと、自分の存在があやふやな感じ。
でもまあ、誰か解らないけど冥福を祈るさ。
しばらく目を瞑りお祈りした。
どのくらい祈ったか、遠くから走行音が聞こえてきた。
首元を風がフワッと流れてヒエッて目を開けたら、女性は消えていた。


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しばらくして車がやってきて路肩に止まった。
ハッと目が覚めたような感覚。
こんな山の中に夜中に車が来て止まるとか怖すぎる!

「うわっ」

自分が出した声じゃなくて車から降りてきた男性の声だ。

「何してるの?」と訪ねられたが、
「...バイクがエンストして・・・」と答えただけ。
幽霊の事なんて言ったら笑われてしまうとか、
こんな時に恥かくことを怖がってる自分がアホらしかった。

男性が近くに止まってるバイクを見て、ふーんと納得したような。
男性が近づいてきたのに身構えたが、「そこ、いいかな」と退いて欲しいと言った。
お墓に用があるのかなと一歩下がると、目の前にお墓なんて無かった。
しかも先へ続く道路もない。
ここは林業の車が通る道といった感じの細道で、ただの行き止まり。
その行き止まりに自分は立ってた。

???「あれ?お墓が・・・」と呟いた。
男性が「お墓?ここにお墓なんて無いよ」と、静かに言った。
茫然自失とはこの事か。
ライトに照らされ周囲がよく見えた。
今までバイクを押してきた道はこんな砂利混じりの道だっけ?さっき見たお墓は??
色々頭で整理しようとしても整理できない。
男性が私がお祈りしていた場所に花を供えた。
えっ??
そして手を合わせて祈りだす。

帰ることなんて頭になく、ただこの変な状態の解答が欲しかった。
手を合わせ終わった男性が立ち上がり、
誰が見ても怪しさ大爆発な私に話してくれた。

「もしかして、何か見た?」

何かと言うのは当然幽霊だろう。

「女性が・・・追いかけてきて」

とキョドりながらだと思うが答えた。
ナビに沿って走ったら行き着いた場所がここで、
幽霊が居てそばにお墓があったので手を合わせましたと。
男性はしばらく「へー」と相槌を打って考えた様子、
「なにかされた?」と聴かれたが、追いかけられて気がついたらここだったと答えた。

「A美(仮)が呼んだのかな」

男性がそう言った。


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暗いので車の中へ誘われて詳しく話をしてくれた。
所々うろ覚えだから脳内変換してます。

私がここに呼ばれた意味は解らないけど、
寂しかったんじゃないかなと言われた。

男性、BさんはそのA美さんの彼氏で、
よくドライブにこの近くの峠道を利用してたと。
A美さんも車の免許をとり、独りでその峠道を走ることもあったようで。

そんなある時、A美さんの車がトラブルで峠道の途中で動かなくなったらしい。
携帯は圏外の場所らしく多分電波のある所まで歩いて戻ってたんだと思うが、
夜の峠道、通りがかった車に乗せてもらい移動しようとしたんだろう。
その車の主にこの場所にさらわれて、コロされたと。
ここが遺棄現場だと聞いて震え上がった。
Bさんは寂しそうな顔で語ってくれた。

「今日が命日でね、僕の代わりに近くに居た君が呼ばれたのかな」

なんて声をかけて良いか解らなかった。

女性の幽霊は自分をここへ誘導しこの場所を教えた。
それ以外に何もしなかった。
女性は何か寂しそうだった。
祈って欲しかったんだと思う。
それだけを伝えたら、Bさんは

「良かった。もしかしたら犯人かもと少し警戒してたんだ。A美をあんな目に合わせた奴なら何かされてただろうし」

と、なんとも言えない表情だった。
「そもそもこんな時間にこんな所へ来ないか」と、安心した感じになった。
犯人がまだ捕まってないのが残念だった。


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その後、Bさんに車のライトで照らして貰いながらバイクのキーをONにするとライトが点き、エンジンもすんなりと掛かった。
化かされていた気分だ。

Bさんに先導して貰って、林業道?から出た峠道まで戻ることになった。
Bさんは「A美の為に祈ってくれてありがとう」と言って先に車を出した。
砂利で荒れていたのは少しで、すぐにネイキッドでも走れる道路になった。
無事峠道まで戻りそこで別れて、ナビに沿って帰ることが出来た。
怖かったけど、現場にBさんが来てくれて話も聞けて全て落ち着いた。
もし来てなかったらと思うとゾッとする。

2度見たお墓だけど、多分一度目のは峠道から林業道?へ入る時だと思う。
二度目は現場だったが。
もちろん一度目のお墓も見当たらなかった。
あれから夜走る時はハンドライトを持って行くようになった。
もしもの時の為に。

Bさんには言い忘れていたけど、ナビに表示された「女」の文字が今でも怖い。
また夜の山道でナビに表示されないかと。

長文失礼しました


819
>>816
かなり面白かった
描写も細かすぎることなく、リアリティーあった


828
>>816
久しぶりにゾッとした。






引用: ほんのりと怖い話スレ その88