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親父が入院したときの話。

無事、手術が成功しヤレヤレ一安心と家で寝ていると電話がかかってきた。
出ると病院からで親父が暴れているという。
病院にかけつけると医師と看護婦が親父を、まあまあとなだめながらベットに寝せ押さえていた。
その時の親父は目はキョトキョトしおびえたようなかんじで、俺がやくざに殴られているだの誰かが殺しにくるなどと意味不明なことをわめいていた。
とにかく肝臓の手術で管とかまだ肝臓に繋がっていたままなので、
ベットから起こしてはいけないと医者に言われた。

その日から家族で交代で夜、付きっきりで看病することになった。
とにかく何度も起きようとするので、なだめて押さえつけるのに苦労した。
とにかく寝ようとしない。
医者も見かねて鎮静剤や睡眠剤を注射するのだが効かない。
神経がたかぶっているようだった。

そのうち親父は幻覚を見るようになった。
生きている人、もう昔に氏んだ人にかかわらず、
あたかも、そこにいるように何もない空間に話しかけるのだった。
俺もたまりかねて
「こんな時間に見舞いにくる人がいるわけないやん。」




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と話しかけると一瞬、親父はハッとした表情になり、
ボーとしたようになったかと思うと、また何もない空間に話しを始める。
見舞いに来てくれた人に失礼だからと、また起きようとする。
この繰り返しだった。

家族全員、疲れきって、何晩目かの夜、その日はおれが付き添ったが、
俺は癇癪を起こして、話し続ける親父に、
「誰もいない!。寝ろ!」
と腹をたてて言った。すると意外なことに
「ハイ」
と親父は素直に言う。目を開けていたので
「目をつぶる!」
「ハイ」
「朝までぐっすり寝る!」
「ハイ」
と言って、後はイビキをかいてねてしまった。

翌朝、親父は目覚めると普通に戻っていた。
今までのこと覚えているかと尋ねるが覚えていないと言う。
ただ、その後おふくろに
「そういえば、○○(俺の名前)がイビキかきなさい、寝むりなさい」
と言ってた様な気すると言ったと聞かされた。


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一時は医者から、このままでは精神病院に入院させるかもと言われ、
親父について「気の小さい人なんですかね」といわれたが、
俺はそういうものとも違うように感じていた。

真っ暗な病室の中に医療器械の光が点滅していたり、
機械的な音だけが響くなかに置かれれば誰でも不安に思うし、
神経にくるだろうなと思っていた。
その後、これはOA症候群と言われる神経症だったと知った。
「気が小さいんですかね」と言う、
こういう洞察力のない医者がヤブ医者ていうんだろうなと思ったものだった。

今はもう親父も他界したが、その後、俺は893にボコボコに殴られたことがあった。
その時、ふと俺が893に殴られていると幻覚を見ていた時に言っていたなと思い出した。

もしかしたら、親父は幻覚に混じってホントの未来も見えたんじゃないかなと思ったりもしたが、それは考えすぎなんだろうな。






引用: 人が狂ってキチになる瞬間