505 2018/08/06(月)
今まで忘れていたのですが、思い出してしまったし、誰かに聞いて欲しいので、なんとなく書いていきます。
これは私が高校二年生だった頃の話なんですが。
夏休みに入ったばかりで、その日は登校日でした。戦争の学習?だったと思います。
午前中に授業が終わり、よっしゃー帰ろう、と気分が上がっていたときに先生に呼ばれ、部活に入らないかとかしつこく誘われました。
とはいえいまさら入っても三年生になったらどうせ幽霊部員だし……とかなんとか先生と言い合いになっていたら、いつのまにか夕暮れ時になっていました。





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私はいつも歩いて下校していたのですが、他のクラスメイト達はみんな先に帰ってしまっていて、その日は一人で帰っていました。
で、帰り道の途中にバス停があるんですよね。木で作られた小さな屋根のあるバス停。
そのバス停に、一人の男子生徒が立っていたんです。
私と同じ学校の制服なんですが、真夏なのに、冬用の黒い長袖の制服を着ていました。
見るものが田んぼしかないド田舎なので、バスは一日に数台しか来ません。
今日はもう、最後のバスはとっくに通り過ぎているはずでした。
それなのに、なぜかその人、バス停から動かないんです。



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バス停の前を通るとき、無意識に足を止めてしまいました。
いつもならスルーして通り過ぎるのですが、思わず。
背が高いのでたぶん先輩の誰かだろうと思ったんですけど、その先輩、泣いていたんです。
立ったまま両手で顔を覆い隠して、すすり泣いていました。
ひっく、うぇ、ひっく、あう、うぇ、って。
自分よりも大きな体格の先輩がマジ泣きしてたんです。
早く帰りたかったし、関わると面倒な事になりそうだったし、やっぱり無視して帰ろうとしたんですが。
その先輩の足元に、何冊かのノートが、地面に投げ捨てられたかのように散らばっているのを見たんです。
イジメにでもあってるのかなって思ったのですが、よく見るとそのノート、みんな別の人の物だったんです。
ノートに自分の名前とか学年とか書きますよね。
でも、そのノート、書かれている名前も学年もバラバラだったんです。
知っている人の名前まであって、状況に頭が追い付かず混乱してしまって。
立ちっぱなしで泣きじゃくる先輩に声をかけたんですよね。
「なんですかこれ」みたいな感じで。
そしたら、ぴたっと泣き声が止んだんです。
そして、いきなり顔を上げて私を見て、笑ったんです。変な声を出しながら、にたぁ、って。



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それで私は走って逃げました。一心不乱に走りました。
後ろで声が遠ざかっていくのが分かりましたが、見るのが怖くて振り返ることもできずに家に駆けこみました。
泣きながらドタバタと帰ってきたせいで母が「どうしたの!?」とかなり驚いていたのですが、相手にする余裕すらなくて、自室へと逃げ込んで鍵をかけて布団にくるまりました。
母親がドアを叩いて呼んでいましたが、ただただ怖くて怖くて、布団の中で泣くことしかできませんでした。
それからいつの間にか眠っていたみたいで、気が付くと真っ暗になっていました。
時計を見ると、すでに深夜一時を過ぎていて、嫌な時に起きたと、呆然としながら思いました。
もしかして、あの先輩は夢だったのかもしれないと、そう考えていた矢先に、声が聞こえてきたんです。
ひっく、うぇ、ひっく、あう、うぇ、って。
嗚咽混じりの泣き声が段々と大きく、少しずつだけど確実に近づいて来る。外にいる。すぐそこまで来ている。
それに気付いた瞬間に心臓が寒くなって、体が震えました。人って、本当に怖くなったときは震えるんですね。
気が動転して、どうしたらいいかわからなくて高校の友人に電話しました。
深夜に電話されて不機嫌そうでしたが、必氏に状況を説明すると「ちょっと待ってて、兄に聞いてみる」と言われました。
電話を切られて静かになると、泣き声が余計に大きくなった気がして、怖くて何も考えられませんでした。



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今度は友人から電話がかかってきて、ホッとしながら出ると、
「見るな! 外だけは絶対に見るな!」
と友人の兄に叫ばれました。
それから
「背が高くて制服を着ていたんだな、間違いないな!?」
「逃げる時は振り返ってないよな!?」
「外は絶対に見たら駄目だから。窓も見るな!」
と矢継ぎ早に聞かれて、友人の兄はかなり焦っている様子で。
どういうことなのか説明を求めても、
「あとで教えてあげるから、今は何も聞くな。外だけは見るな! 電話も本当はマズいから、悪いけど切るよ。朝まで我慢して!」
と言われて電話を切られました。
まあ、それから布団にこもっていたら本当にあっけなく朝が来て、泣き声もいつのまにか消えていて、自室から出てリビングに行ったら家族が普通にご飯食べていたんですけど。
安心したのか怖かったのか、気が抜けて腰が抜けて、病院送りになりました。
その後は検査しても何もなかったし、あの先輩のことも夜のことも話さなかったのですぐ退院。



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後になって友人の兄から聞いたんですけど、なんでもその先輩は「かとう先輩」っていうそうです。
異常な収集癖を持つヤバい男、という都市伝説を聞かされたんですが、まさか本当に会う人がいるとは思わなかったって言われて、逆にこっちが質問責めにあいました。
友人の兄が高校生だった頃から「先輩」だったそうなので、おそらくもう高校生と言えるような年齢ではないと思うのですが。
なぜあの人がうちの学校の制服姿だったのかも、なぜ泣いていたのかも、そもそもどうやって他人のノートを集めていたのかも、その姿以外は結局ほとんど全部不明のままです。
数年経っていつの間にか忘れていたんですけど、こんな体験を忘れてしまえるなんて、人って怖いですね。
これで話は終わりです。読んでくれた方、ありがとうございました。







引用: 死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?351